TWIN | ナノ
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「ナコ、」


伸ばされた手にビクッと反応する。するとそれは少し躊躇って、降ろされた。アヤナミさんはただ黙ってこちらを悲しげな瞳で見つめている。言いたいことがたくさんあるのに、言葉になって口から出ようとしない。意思と関係なく身体ががくがくと震える。止まれ止まれ、どうしてアヤナミさんに怯えているんだ。彼は私の恩人で、・・・。でも、さっきの人は誰?私が苦手な男の人だ。
心では必死に大丈夫だと言い聞かせても、身体は正直で、ドキドキと心拍数が上がって、熱くなって、手汗がひどくなって、うまく笑えなくなって、話せなくなって、怖くなる。男性恐怖症。最初は思春期にある異性を意識してしまうとかそんなものだと軽く思ってた。でもそれはだんだんひどくなって、全ての男性に対してそうなってしまって、ずっと男の人を避けてきた。ここに来てから、アヤナミさんたちに会ってからはそれは少しずつ無くなっていった。ブラックホークのみんなだけは平気だった。理由はわからないけれど、男の人に対する恐怖とかはなく、楽しかった。アヤナミさんだけは男性恐怖症に似た現象が起きたけど、でも全然違った。ドキドキ、高鳴る鼓動に、赤くなり跳ね上がる体温、手に汗かいて緊張して、でも恐怖なんてなくて、もっと話していたい。もっと傍にいたい。この人の色々な表情とか仕草とか、私の知らないことが知りたい。そう思った。恋だと自覚したのはその後すぐ。でも認めたのはつい最近。
だって、今まで男性恐怖症のせいでなかなか人を好きになれなかったのだから。直接接触することのない相手を選んで、その人がたまたま偶然私の好きなタイプだったから、私はずっと坂田っていう架空の人間に逃げていたんだ。そうやって自分を強くみせることで私はわたしを保っていた。それに加えて私は異世界の人間。アヤナミさんと結ばれたいと願うのは許されるんだろうか?ああ、でもアヤナミさんが私を好きになってくれるかはわからないけど。限りなく可能性はゼロに近いけど。・・・でもたとえ結ばれようが結ばれなかろうが、いずれわたしは帰って会えなくなる存在だから、こんな気持ちなんて消えてなくなってしまえばいいのに。


「アヤナミさん、」


ぴくりと反応するが私の目を見てくれない。後ろめたい、そんな雰囲気が見ただけでも伝わる。
流れる涙は止まらないけれど、心は落ち着きを取り戻していた。恋というのは怖ろしいものだ。男性恐怖症なんてなんだそれとばかりに吹き飛ばす。

すっと手を伸ばしてアヤナミさんの頬に手を当て撫でた。その手を一回り大きいアヤナミさんの手が掴んだ。


「・・・許してほしいとは言わぬ。許されずともよい。私は、ただお前が、」


じっとアヤナミさんの目を見つめる。アメジストの瞳が地面から私を映す。


「・・・私は、お前が好きだ」

「・・・愛している」


どくりと心臓が跳ねる。一番欲しかった言葉。なのに、どうして私は最初からこの人と同じ場所に生まれてこなかったのだろうと、どうすることも出来ない悔しさだけが残った。


「アヤナミさん、私はっ」

「いい、その続きは聞きたくない」


え、と拍子抜けしてぽかんと口を開けた。そして目を見開いた。


「んっ・・・!」


長く続けられたそれは限界になって離された。はぁ、と大きく息を吸う。唇に残る温もり。口内を犯された感触。厭らしい水音。離される時のリップ音。


「っ、どう・・してっ・・・」


流れる一筋の涙を手袋をした手で拭い、耳元で一言すまぬと言うとアヤナミさんは戻って行ってしまった。

涙はもう出てこない。アヤナミさんが全部持っていってしまったんだろうか。思い出すのは先程の深いキス。恋人にするようなそれをあえてやった。私の心はお見通しということかな。さすが参謀長官、たかだか庶民からのなり上がりが騙せるわけも、隠し通せるわけもなかった。
きっとこの後みんなのところに戻っても、アヤナミさんはいつもどおりのアヤナミさんになっているんだろう。何事もなかったかのように振舞うのだろう。

・・・私がそう望んだから、









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