60/66
「今夜はご多忙の中、このフリンデル・エーデルシュタインの誕生パーティにお越しいただきありがたく存じます。どうぞごゆっくりご堪能くださいませ」
どこかで見たと思ったステージ上に立つ令嬢は、この間私が任務で守った令嬢だった。そのお礼にと、令嬢自ら私宛に招待状を送ってきたらしい。なのに何故私が一番に知らされていないのかが不思議である。
豪華に飾られてた内装。天井のシャンデリアが光に当たって眩しく輝いている。各テーブルに食事が置いてあり、あちこちでウェイトレスが歩きまわっている。ステージの端ではピアノやヴァイオリンなど楽器を弾くオーケストラ。任務で来たときに比べてかなり変わっていて、気付かないのも同然だった。
「わたし、今ものすごく場違いな気がします」
「・・・」
「いや少しは否定して下さいませんか、アヤナミさん」
「お前は私とともに挨拶まわりに行く。はぐれるな」
まるで子ども扱いのようなアヤナミさんの態度に腹が立ったが、我慢した。
挨拶が終わると、自由行動を許された。アヤナミさんはお偉い人とまだ話があるらしい。
「ナコたん、はいこれ」
「ヒュウガ少佐・・・!食べ物取ってきてくれたんですか!?」
「喜ぶと思って」
「喜びますとも!私ヒュウガ少佐の紳士的態度に惚れそうです」
「ほんとに!?じゃあお礼にちゅーでも、」
「あ、クロユリ中佐それ何食べてるんですか?」
顔を覆ってナコたんのいじわるっ!とか言っている少佐は無視した。
「これ?あっちにいっぱいあったよ」
「よければあげましょうか?」
「大丈夫です!自分でとってきますから」
少し小走りでうきうきと向こうのデザートが乗るテーブルに近づく。
「うわあおいしそう・・・!」
たくさんのかわいらしいケーキたち。クロユリくんが食べていたものを探すと、残りの1つになっていた。
手をのばそうとしたとき、横からすっとその皿をとられた。
「あ・・・」
「え、あっすみません!どうぞ」
「いえ大丈夫です、また追加されるでしょうし、お気になさらず」
「俺が横からとったんです、どうぞ食べて下さい」
「いいん、ですか?」
「はい」
にこやかに微笑む男性に気圧され、ケーキの皿を受け取る。
しかし、いざ食べようとしたとき、視線に気づいた。
「・・・半分こします?」
「え?あ、いやすみませんいいです!」
「はい、どうぞ」
「・・・どうも」
半分に切ったケーキを私が口に運び、残りの残ったケーキの皿を渡す。するとすごく嬉しそうに皿を受け取ってケーキを食べるものだから、つい笑ってしまった。
「え?え?」
「いえ、貴方のような大人の男の方がスイーツをお好きなのもちょっと珍しいと思っていたのに、凄くおいしそうに食べるものですから、つい」
「・・・駄目ですか?大人の男が甘いものを好きなのは」
「あっいえ違うんです!・・・ちょっと、私の好きな人がスイーツ大好きだったのでなんとなく微笑ましいというか・・・可愛い、といいますか」
「・・・そうですか、」
なんとなく恥ずかしくなって、お互いに下を向く。よく見たらどことなく、私の好きな坂田に似ている。
「あ、の」
「はい?」
「このあと行われるダンス・・・俺と、踊りませんか?」
私は驚いて目を丸くする。・・・ダンスがあったことに。
「ごめんなさい、私踊れないんです」
「大丈夫、俺がリードしますから」
「いやほんと遠慮しておきます」
「・・・そんなに俺と踊るのが嫌ですか?」
「・・・少しくらいなら」
「じゃあ、踊りましょう」
「え、」
騙された。悲しそうな表情をするものだから、つい了承してしまった。しかしすぐ変わったにこやかな笑顔を見れば、演技だったと気付く。
「で、でも私ちょっと付き添いの人達いるので待たせているので」
「きっとまだデザートを選んでいると思っていますよ」
さっきまでの可愛いような雰囲気はどこにいったのだろうか、この男、結構強引だ。
「別に私じゃなくても、貴方みたいな素敵な男性に見合う女性なんていっぱい・・・」
「嬉しいなぁ、かっこいいって言ってくれてるんですよね?」
「そ、そういうわけじゃ・・・」
「・・・俺は、君が綺麗だと思ったから選んだんだけどね」
「はい?」
「さ、そろそろ時間だよ」
「えっ、もうですか!?まだ心の準備が、」
ステージに人が立ち、スポットライトが照らす。
「今夜はご多忙の中、このフリンデル・エーデルシュタインの誕生パーティにお越しいただきありがたく存じます。これからダンスに移るのですが・・・ひとつ、わたくしの方からプレゼントを用意してあります」
「わたくしはついこの間、生命の危機に立たされ、生きている喜びを感じました。ですからわたくしからプレゼントしたいのです。そのプレゼントは、わたくしがダンスで一目置いた組に渡したいと思います」
会場がざわつく。
「では皆様、ご健闘を」
「・・・がんばらないとですね」
「いやわたしは」
「お手をどうぞ」
「ちょ、話聞いて」
音楽が流れると同時に、手を掴まれ腰に手を添えられ強制的に踊るはめになった。私は挙動不審で足元を一生懸命見て合わせるので精一杯。前にアヤナミさんに教わったことがあり、なんとなく身体が覚えていた。彼のリードもうまくて、なんとか見かけは綺麗に踊れていた。
「なんだ、踊れるんじゃないですか」
「・・・・・・」
「怒らせた?」
「いえ、別に。あの、この曲だけですから」
「・・・なんかよそよそしくなってない?」
「!・・・そんなことは、」
「もしかして男には慣れていないクチかな?」
先ほどから感じていた違和感。踊ることによって近距離になり、それは大きくなった。触れる手が汗をかいているようで早く離したい。思春期特有のこの異性を意識する心が嫌だ。何とも思っていない、そう考えれば考えるほど冷たい態度しかできなくなる。好きとかそんな類のものからくるものではない。・・・男性恐怖症。最近はめったに無かったから克服できたと思ってた。でもこの恐怖感は、今すぐ一人になりたいと思うこのいたたまれない想いはまさしくそれだ。・・・アヤナミさんに会いたい。
・・・なんで、今、
「顔色悪いけど、大丈夫?」
「あ・・・、すみません」
「・・・俺はさっきの笑顔が見たくて踊りに誘ったんだけどね」
「え・・・」
「君を笑顔にできる人はもういるみたいだね」
「どういう意味で、っ!?」
後ろから両手首を掴まれた。
*前 次#