56/66
「ボス、例の娘攫って来ました。アヤナミのやつにも復讐は成功です」
「・・・ごくろう。お前らは仲間に伝えろ、俺もそっちに向かう」
私は敵に連れられて、屋敷のある部屋にいた。そこにはボスと呼ばれ慕われる人物が中心に鎮座していた。どこの将軍ですか?
「さて、貴女にも色々手伝ってもらいますよ。交渉のためにね」
「交渉・・・ですか?」
「そう、貴女の立場を利用して、貴族も軍も揺らしてある交渉をするんです」
「・・・・・・」
「今から貴女の父親と母親のいる、一番戦場と化している場所に私と部下と行き、人質になってもらいます。大丈夫、少し手荒な扱いをしますが、貴女を殺しはしませんから」
「・・・信じろというのですか?」
この人はいったいなにがしたいんだ。お金?仲間の解放?復讐?
「別に信じなくてもいいでしょう。まあ要するには、あまり暴れないほうが、身の為だということです」
このままじゃ任務は失敗する。たくさんの人が死ぬ。怪我する。ブラックホークのみんなが危なくなる。そんなの嫌だ。でもどうすればいいんだろう・・・アヤナミさんなら、どうするんだろう。
「さあ、行きましょう」
「・・・はい、」
響く銃声、叫び声。ザイフォンが飛び交う。剣がぶつかり合って金属音が鳴り響く。私にとっては地獄のような光景だった。幸い、怪我は負っているもの、両者とも抗戦状態で死者はでていないようだった。ある意味奇跡だ。
私の背中には銃が突き立ててあり、隣に並ぶこの犯罪組織のボスがその銃を持っている。
誰もが目を向けるくらい大きな音が近くで鳴った。敵側が天井に向けてバズーカを撃ったのだ。
両者とも一時攻撃を止め、こちらを見る。
「この娘は我々が捕らえた。返して欲しければ、条件を呑んでもらおうか!」
ボスがこの貴族の主人に向かって叫んだ。
「・・・ば、ばかめっ!それは軍が用意した偽者だ!!条件など聞かぬぞ!」
貴族の主人が叫ぶ。
私も気付く。そうだ、私は私だった。切り捨てられることができるし、自分で逃げることもできる。
だが、それは叶わなかった。
「旦那、私どもは見事に騙されましたよ、最初はね。しかしどうやら神は我々に味方のようだ。偶然もう一人の娘さんを見つけましてね、全て吐いてもらいました」
「お父様!お母様!」
後ろから声が聞こえた。振り返れば他の敵に銃を背中に押し付けられてる本物の令嬢。
どうしてっ!?
「さあ、条件を呑むか、娘を見殺しにするか!」
男は叫ぶ。愉しそうに。
「・・・条件はなんだ」
主人は悔しそうに言う。
「軍への資金を一切やめろ。そして、他の貴族にも軍に金を出すことをやめさせるんだ」
私の中では正直驚いていた。そんなことは推測には全くなかったから。
「そして軍にはラグス王国の民の解放を申す!ラグスは滅びぬ!ラグスは再び復活するのだ!!」
言い切った途端周りの敵が一斉におおおおおと叫びだした。
この人たちは、何の目的で?お金?仲間の解放?復讐?
違う、違う。この人たちは私の思っているような人たちじゃない気がする。いい人には思えないけど、悪い人にも思えない。
ラグス・・・読んだ本に載っていたのを微かに覚えてる。確か、バルスブルグ帝国に滅ぼされた王国。ミカエルの瞳を持つ国。
ということは、この人たちはみんな、ラグスにいた・・・
「ラグスは滅んだ!お前たちの王の裏切りによって!王族はもういない、ラグスは復活などしない!!」
軍の方も士気が上がる。
裏切り。本には確かにそう書かれていた。フェアローレンをめぐって、ラグス国王が死神の封印を解こうとし、世界の英知を奪おうとしたため、帝国は裁きを下した、と。
私はそれが書いてあることなのだから、それが事実だと認識してる。でも心の中で私じゃない誰かが否定していた。それが誰かはわからない。
「軍が何と言おうと、貴族がいなければ、金がなければ何もできない!さあ、結論を!」
「っく、」
「お父様!」
ああ、なんだか面倒臭い。だから嫌だったんだ。こんなドロドロで、人間の裏ばかり見えてしまうこんなところ、来たくなかった。関わりたくなかった。お互い同じ人間だというのに、国が違うだけで争い、上だけが真実を知って、下は利用されていく。平和、話し合い、共生、理解、そんな言葉を彼らは出来ないことはないのに。出来るはずなのに。
「私の世界は、私の国は、まだよかったなあ・・・平凡な日常が、何も起こらない日々が、退屈すぎる毎日が、幸せだった」
「・・・何を言っている、」
「何がこんなにも違うんでしょうね?」
「!?」
ボスの股間に思いっきり蹴りをいれてやった。
苦しそうにもがき苦しむ。きっとしばらく立てないと思う。申し訳なく思うが、これも仕方ないこと。銃持ってるしね。
銃を取り上げて、ボスに向ける。
「な、んの・・・つもりだ」
「あなたは、間違ってる。だからといって、帝国が間違っていないとは言いませんよ?でも、やり方ってものがあるでしょう?」
「・・・貴、様・・・どちらの味方だ」
「・・・私は、どっちにも属さない、中立が好きなんです」
「・・・・・・」
「ボス!おい女、勝ったと思うなよ!令嬢はまだ・・・な!なんだてめえ!?っが!!」
すっかり人質がいたことを忘れていた私は慌てて令嬢の方を振り返ったが、令嬢の周りにいた敵は全員一人残らず床に突っ伏していた。
「アヤナミさん・・・」
「ナコ、よくやった。あとは私たちに任せろ」
アヤナミさんが生きていた。そのことに驚きつつ、安心しつつ、ただその姿をみつめた。
今日の朝とは違う気持ちが芽生え始めていたことに私は気付きつつも、知らないフリをして。
アヤナミさんの登場後、クロユリ中佐とハルセさんが令嬢の傍にいることに気付いた。そういえば、二人は令嬢に付けと命令されて行ってたんだった。
敵がばたりばたりと倒れて行くのが見える。倒れた敵の中央に立っていたのは、ヒュウガ少佐とコナツさん。
「やっと出番だよー。待ちくたびれちゃった☆」
「真面目にやってください少佐!」
軍の方もそれに続いて動き出す。カツラギ大佐が貴族の主人と奥方の近くに立っているのが見えた。指揮をとっているように見える。
もう軍が圧倒的に優勢になっていた。敵の方は、負けを認めたのか、もう攻撃はしてこなかった。
すべてはアヤナミさんの計画通りだったような気がした。それに安心していいのかわからないけど。
「・・・貴女は、軍人なのですか?」
隣で蹲っていたボスが、静かな声で尋ねてきた。敵意を感じなかったため、私は普通に答えた。
「あ、大丈夫ですか?すいません、思いっきり蹴ってしまって」
「・・・何故貴女みたいな優しい心の持ち主が軍人なんかに?」
「・・・成り行きです。本当は、やりたくなかったですけど」
「貴女は軍にいるべきではない」
「え?」
思わず聞き返してしまった。それがただの帝国への恨みのせいかと思ったが、彼の目は真剣に、私の目を見て言っていたから。
「・・・いつか必ず貴女を助けに戻ってきます」
「なんで、ですか。私はあなたを捕まえたんですよ?それに、助けるってどういう・・・」
そこまで聞いて、彼は軍人に連れていかれてしまった。結局意味がわからないまま。
最後に意味深な言葉を残して。
「貴女は司教様がおっしゃっていた救世主だ」
救世主・・・。私が?メシア?ヒーロー?
ないないないない。中二病にもほどがある。いい加減過度な期待の妄想はよせ私。
ちょっとかっこいいとかいい気になったところで、頭をたたかれて意識が戻った。
「何するんですかアヤナミさん」
「何度呼んでも返事がないお前が悪い」
なんだろう、アヤナミさんがいつもより少し機嫌が悪いように感じる。
「何かあったんですか?」
「・・・・・・無意識というのは恐ろしいな」
「はい?・・・!?」
嫌味を言ってやろうと口を開く前に、アヤナミさんに片腕で抱きしめられた。恋人がするような抱擁ではなく、ただ単に仲間を想うような抱擁。
でもここ、人がたくさんいるんですけど。
「無事で何よりだ。よく頑張った」
「無事で良かったのはアヤナミさんのほうですよ!!あんなことがあって、私、アヤナミさんがっ」
アヤナミさんが絶体絶命の危機になった瞬間がフラッシュバックして、引っ込んでいた涙が出てきた。
アヤナミさんは優しく頭を撫でてくれる。
「すまない」
「心配、したんですよ!まあ絶対生きてるって、ピンピンして颯爽と登場してくるんだろうってわかってましたけど!」
「そうか」
「そうですよ、全く。
・・・やっぱり私、任務は嫌いです」
「・・・ああ。お前はやはり任務には全く向いていない」
きっと、アヤナミさんは気付いていた。知っていたのだろう。私がこういうのが嫌いなこと。苦手なこと。それでも、上を黙らせるには、実際に使えるかどうかやらせて見なければ納得しないから、妥協して私に任務をさせた。そうでしょう、アヤナミさん?
-----キリトリ-----
フラグ立てまくりました。
ここから一気に物語を進ませていきたいと思います。
*前 次#