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ちらっとガラスの外を見れば、アヤナミさんと目が合った。見知った顔がいることで安心するところだけど、アヤナミさんの周りや後ろにたくさん人が集まり始めているのを見て、すぐに視線を戻した。
想像していた人数よりいるうううううう!!!
どうしよどうしよこれへまなんかしたら囚人に殺される前にアヤナミさんに殺されるんじゃ・・・
「!」
目の前の扉らしきものが開いた。ゆっくりと、重たそうにガラガラガラと持ち上がる。
「軍の連中は頭でもおかしくなったのか?へへっ」
「こんな小娘が当たるなんてついてるぜ!」
「俺が殺す!誰も手出しすんじゃねえ!」
長身、筋肉マッチョな男で舌なめずりばっかしてるきもいのが一人、普通体型のような男で武器をたくさん仕込んだマントを羽織ったやつが一人、とりあえず全てがでかいというか人じゃないだろ的なやつが一人、上から順に名前をつけておこう。れろれろキャンディー、露出魔、山の妖精。うん、私のネーミングセンス輝いてる。
「それでは、試験開始!!」
先生の掛け声とともに銃声が連続して響いた。露出魔が私の方角目掛けてマシンガンを撃ってきたのだ。
「おいおい、そりゃ卑怯だろ」
「最初がチャンスなんだよ」
「俺が殺すはずだったのによお」
3人は余裕に下品な笑い声を出す。煙が巻き、姿を現したところを他の二人も一斉に攻撃する、それが狙いだった。
「おい露出魔てめそれはチートだろ!」
私はマシンガンを撃たれたときは少しびっくりしたけど、自分でも驚くくらいあっさりと避けた。ザイフォンで防御壁を作ってしまえば最強に鳴る武器も屁でもない。
「なっ!・・・ならこれでもくらえ!!」
露出魔はマグナムを構えた。やばい、ゲームで見たことあるな。確かマグナムは結構威力強くて敵を即死とかさせてたな。
「死ね!!!」
引き金を引くが、マグナムは発射されない。
「な、なんで・・・こんなときに故障か!?くそっ」
「うおりゃああ!!」
「そげふっ!」
よし、まずは一人目。露出魔ダウン。
「なかなかおもしれえ嬢ちゃんだ。だが、そんなんじゃ俺は倒せねえぜ!」
「くっ、」
まっすぐ伸びてきたキックに一瞬怯む。次はれろれろキャンディーが相手か。
「がっ!?」
ふいに後ろから拳が思い切り私のわき腹を殴った。私はそのまま横に吹き飛ばされる。
危ない、一瞬でも気付くのが遅かったら死ぬところだった。
「っち、一回じゃさすがに死なねえか」
あの山の妖精さん無駄にでかいからな・・・しかもれろれろと組んで同時に2人相手とかなにそれ辛い。
「どうした、かかってこないのか?」
れろれろがうざったらしく挑発してくる。いらっとしたらおわりだ、いらっとしたらおわりだ、いらっとしたらおわ(ry
ゆっくり深呼吸する。落ち着くんだ、冷静にならなきゃ。どんな言葉にも惑わされないように・・・
「てめえみたいなひ弱そうな女でもこの学校に入れるんじゃ、この国も終わったな」
「女は男に従っていればいい」
ぶちり、自分の中で何かが切れた音が聞こえた。今まで聞いたことがない音だ。そして今までこんなにも感じたことがない程の怒りが込みあがってくる。
「これで死ねえ!!」
「楽に殺してやる」
れろれろが飛び蹴りをしてきた。すかさず山が体当たりをしてくる。いつの間にか起き上がっていた露出魔もライフルを撃ってきた。それは体力がなくなるまで連続して行われた。3人は余裕の笑みを浮かべる。
煙が部屋を充満させる。ガラスを通して見ている側からは全く見えない。誰が生きて死んだか、どうなっているのか。
「おい、期待の候補生だというから見に来たというのになんだこれは」
「まるで話にならん」
「私は帰るぞ」
「だが女であるからには他にも使えるのではないか?」
「ああ、ここで捨てるのはもったいない」
様々な言葉が軍の幹部達から発せられる。
「全く、見る目がない者ばかりだな」
「・・・・・・」
ミロクとそのベグライターであるカルもまたその場にいた。
「・・・・・・」
アヤナミはただ一人、煙の中の一点を見つめていた。
煙がだんだん消えていく。全て消えて無くなったときには、そこには銃弾と確かに居ただろう跡しか残っていなかった。3人の囚人は見渡す。が、3人の囚人が真っ黒な見たことの無い文字のザイフォンを見たと同時に、その場に倒れた。
しん、と静かになる試験場。先程まで嫌味を言い続けていた幹部は声が出ず、何が起こったのかもわからずにいた。
ふと3人の囚人が倒れている位置の真ん中の頭上から、ひらりと受験生が降りてきた。
そう、私は囚人が攻撃をしている間、ずっと天井にザイフォンを駆使してへばりついていた。面白いことに誰一人気付かなかったので、そこから攻撃を止めた3人をザイフォンで一発で仕留めた。ただそれだけ。
「まだ試験は終わっていませんよ。殺すまで、とルールにあるはずです」
先生がマイクを通して話してくる。
「ルールなんて知りません。私は人殺しはしません」
ざわざわと会場がざわめく。当たり前だ。きっと殺さず試験を合格したものなどいないし、殺さないなんて前例は全くないからだ。でも私は殺さない。違う、殺せない。本当は誰かを傷つけたり殴ったり蹴ったりするのだって嫌なんだ。これはただの喧嘩だって思えばまだ大丈夫だけど、でも私はただでさえおとなしめの方だと思うんだ。喧嘩類の話では。
「しかし・・・」
「・・・無理です。それで駄目なら私は棄権します」
さらに大きくなったざわめき。そんなに珍しいことを言っているだろうか?この人達の基準がおかしいんじゃないか?
「彼女の言い分を受諾しましょう」
ちょうど今来たところなのか、入り口に部下とボディガードをたくさんつけた人物が一際目立って大声を出した。
「正気ですかオーク元帥殿!」
「私は正気であるし、本気だ。彼女は実際に成果を出しているうえ私にとっても軍にとっても借りがある。彼女を合格にするのは当然だ」
「オーク元帥がおっしゃるなら、我々も特別許可を出すしかありませんな」
「では特別枠として、ナコ=ジユウを合格とする!」
頭が真っ白になるとはこういうことだろうか。思わず呆けてしまい、目が点になった気持ちだった。自力で試験会場の部屋の中から出たことも曖昧で、暫くアヤナミさんが来るまでドアの前で固まってしまった。私、合格したのか。
「合格おめでとう、君のことはミロク理事長からもよく聞いていたよ」
私を合格してくれたと言ってもおかしくない、オーク元帥が目の前に来た。元帥というと軍の最高幹部にあたる役職だったはず。ここは頭が高い、控えおろう!とかいわれるところなんだろうか。とりあえず私は頭を下げたほうがいい?
「アヤナミ参謀のベグライターとして大いに期待しているよ」
そのまま肩を軽く叩かれて、そのままオーク元帥は忙しそうに部下の人達と一緒に帰っていった。
私・・・期待されてる!?無理無理無理!!私ただのお飾り、マスコット的存在にしかなれないんですけど!?どどどどうしようこんなんじゃ余計に目立ってるんじゃ・・・。
「帰るぞ」
アヤナミさんが私の頭に手を置いていった。あ、なんかそれ背低いの馬鹿にしてるみたいでちょっと腹立つ。きっとわかってやっているんだろうけど。
「えっと、なんか卒業後の何かとかないんですか?」
「通常はある。だがお前は特別だから無い。明日あたり合格通知が届くくらいだ」
「え・・・凄く寂しいです、それ」
「そもそもお前の存在を公にしてもいいようにやったことだ。軍人になるわけでもないのにそのようなものは必要ないはずだ」
「・・・寂しい人ですね」
「何か言いたいことでもあるのか?」
「なんでもないです」
「・・・・・・」
お祝いしてくれるっていうのは、やっぱり嬉しいもので、口ではそんないいよいいよとか謙遜したりするけど、少しは祝ってくれると嬉しいもので、合格祝いっていうのもそれが言えると思う。モチベーションも違ってくるしね。今までの努力が報われるもの。なのにアヤナミさんはひどいもんだ。きっと祝ってもらったことあんま無いからわかんないんだよ。
ぶすーっと頬を膨らませて不満を表情にわざと出した。そうじゃなきゃ気が治まらないから。でもそれをアヤナミさんが見ていたことは知らなかった。
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