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毎日私がザイフォンで治療をし、絶対安静で仕事をしないように、サボるヒュウガ少佐と一緒にアヤナミさんを見張り(時々コナツさんが釘バットを持ってヒュウガ少佐を連れて行ったりしたが)、あっという間にアヤナミさんの怪我は治った。凄い回復力だと思う。
「本当に大丈夫なんですか?」
「何度も言わせるな、私の怪我はもう完治した」
アヤナミさんが言うのだからそうに違いないけど、でもちょっと心配だ。
執務室に久しぶりに(アヤナミさんの看病で私も引きこもり状態だった為)入ると、懐かしく感じた。そんなにいたわけではないけど、我が家に帰って来た気分だ。
仕事を中断して皆集まり、アヤナミさんの復帰を喜んだ。
ようやくまたいつもの日常に戻ると一人で微笑んでいたら、カツラギ大佐がアヤナミさんに耳打ちをしていた。関係ないなとハルセさんが作ったクッキーに手を伸ばすと、アヤナミさんに呼ばれる。
あ、手にしたクッキーをクロユリ中佐に盗られた。
「何ですか?話を聞く前にクッキー食べていいですか?」
無言で睨まれたので自重した。
「ミロク様がお前に会いたいそうだ」
「・・・失礼ですが、どなたですか?」
「陸軍士官学校の理事長だ。元元帥でもある」
凄い役職柄を聞いた気がして、目が点になり、口がωのようになる。
アヤナミさんは一言、間抜け面だな、と言った。
分かってますよ、言われなくても。
「何故そのようなお方が私に?」
「おそらくこの前の事件のことだろう」
「もしかして器物損壊罪で逮捕されちゃうんですか!?」
途端ヒュウガ少佐が吹き出した。
「なんで笑うんですか、」
ふて腐れて口を尖らせる。ヒュウガ少佐はまた笑う。今のは確実に私の顔で笑ったよね?え、殴っても許されるフラグ?
「その器物損壊させた原因となった力を、ミロク理事長にばれちゃったってことだよ」
「でも私がやったなんて一言も言ってません」
「ミロク理事長は元帥にもなった人だし、人を見る目があるからねえ、」
「男装をしていたのもどうやらミロク理事長にはお見通しだったようです。」
ヒュウガ少佐、カツラギ大佐の言葉でやっと理解した。
私はそのミロク理事長様とやらに、目をつけられてしまったらしい。女であるのにわざわざ男装していた(ただの自己防衛だけど)こと、(自分で言うのもなんだが)膨大で強力なザイフォンを使ったこと、それが、ミロク理事長様に気に入られてしまって、そしてその人物が私だということを知って、目をつけられた。
でもだからといって、どうすればいいのかなんてわからない。
「この際、会っておいても損はない」
アヤナミさんの言葉に他の皆さんは驚いた。
「でもアヤナミ様!ナコのあのザイフォンはあの時だけかもしれませんし!」
クロユリ中佐が珍しくアヤナミさんに反対意見を言った。
「私もクロユリ様と同じく反対です。ナコさんは一般庶民で、軍人というものも無関係だった方で、まだ若い女性です。」
ハルセさんもクロユリ中佐に続ける。
「ザイフォンが強いか弱いかどうかは関係ない。元々は一般庶民であった者は軍でも多くいる。何も知らぬ者も多い。年齢や性別は理由にもならぬ。」
アヤナミさんはきっぱりと理屈のある返答をし、返す言葉が無いのか、クロユリ中佐とハルセさんは黙ってしまった。
少しの沈黙が流れる。
私はどうすればいいのかもどうなるのかもわからないから、ただ黙って周りの話を聞いているしかない。
すると、ヒュウガ少佐がいつも通りの声色で沈黙を破った。
「ま、ミロク理事長がナコたんを軍人にしたいって言った時は、ここで働くようにアヤたんが手をまわして、事務処理担当、とかって無理矢理こじつけちゃえばなんとかなるって」
「ミロク理事長にそれで通るでしょうか・・・」
コナツさんは不安そうにヒュウガ少佐に対して言う。
「アヤたんだって、何の考えも無しに会えって言ってるわけじゃないよ。ね、アヤたん?」
「・・・あの時よりはまともな考えだ。安心しろ、」
アヤナミさんは少し自嘲気味に言うと、柔らかく笑って私の頭を撫でた。
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