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今回のテロ事件は、思っていたより被害が少なく済んだ。負傷者は少数いたもの、死亡者はゼロ。周辺の損傷も軽く、2、3日で修復出来るらしい。
テロ事件の首謀者とその仲間は捕まった。でも、私を人質にして頭に銃を突きつけ、アヤナミさんに銃を撃った人だけは、逃げられてしまったらしい。軍では必死に捜索中だそうだ。
そして、その重傷のアヤナミさんは、軍の病院に行き、即効手術で弾を摘出し、無事、回復に向かっている。本来病室にいるべきなのだが、本人の強い希望で自室での養療となったらしい。
で、私は今現在進行形で、アヤナミさんの自室の扉の前に立っているわけだが・・・入りづらい。
ヒュウガ少佐やコナツさん、クロユリ中佐にハルセさん、カツラギ大佐は、先にこのアヤナミさんの部屋に集まって、お見舞いに来ていているんだと思う。私は検査とかが長引いて後から来たから完璧置いて行かれたんだ。
本当、どうしよう・・・
途端、ガチャ、と扉が勝手に開いて、私は驚いて、ばくばくする心臓に手を当て、どきどきしていると、見知ったサングラスが見えた。
「何してんのナコたん?」
「驚かせないで下さいよヒュウガ少佐・・・」
「ごめんごめん、わざとだよ☆」
「え」
眉間にしわを寄せ複雑な思いでヒュウガ少佐を見ていると、カツラギ大佐に呼ばれたので渋々中に入った。
一番最初に目に入った、ベッドにいるアヤナミさん。起き上がっていて、服装も違うし軍帽も被っていないせいか妙な気分だ。
目が合って、いたたまれなくなって視線を下に反らすと、今度は包帯が巻かれた腕に目がいった。
ズキリ、と胸が痛む。
私のせいで・・・
「ナコ、こちらに来い」
アヤナミさんに呼ばれ、すぐ傍まで近づく。するとアヤナミさんは、包帯の巻かれていない方の腕で、私の頬を撫で、掴んだ。私は自然に蛸唇になる。
「にゃにしゅゆんでしゅか」
「自分のせいとでも思っているのか?」
「・・・しゅみましぇん、」
「何故謝る?謝る必要などない。とはいえ、それが謝っているのかは怪しいが」
「だってアヤニャミしゃんが手をはにゃしてくだしゃらにゃいかりゃでしょう!?」
そんな私とアヤナミさんのふざけたやり取りに、痺れを切らしたヒュウガ少佐が吹き出し、それにつられてコナツさんが堪えながら笑い出す。クロユリ中佐も笑い出し、ハルセさんも小さく笑い出す。カツラギ大佐も口元を手で抑えて後ろを向いて隠れて笑っていた。
アヤナミさんは満足げに微笑み、やっと手を離してくれた。
「みなさん揃って酷いですよ!こっちはシリアスな感じだったのに!!」
「お前にシリアスは無理だ」
「な!・・・せっかくお見舞いに来たのに扱い酷くありませんか、」
「見舞いに来たのに手土産も無いとは」
「だって街に出たことなかったから行けなかったんですよ!お金も無かったので買えませんし!」
アヤナミさんのドSぶりがヒートアップしていく。
誰かこの人止めてくれ!
それにお土産が無くて失礼だということは百も承知。だからこそ考えて練習もして来たのに、雰囲気も何もかも台無しだ。
「せっかくアヤナミさんのために披露しようと思ったんですが、やめておきます」
「見せてみろ」
「嫌ですよ、って、何鞭持ってるんですか!?」
「つべこべ言わずに見せろ」
「わかりましたから、鞭は仕舞って下さい!」
全然、元気じゃないかアヤナミさん。おかしいな、この人銃で撃たれたはずなんだが。
いつの間にか、笑いから復活していたヒュウガ少佐、コナツさん、クロユリ中佐、ハルセさん、カツラギ大佐も私に注目していた。
仕方無く、溜め息を一つ吐いて、大きく深呼吸し、私は手を前に、水を掬うように出して、集中する。ザイフォンが十分大きな塊になると、手の中でザイフォンを光の粉のようにして、高く天井に着くくらい、真上に吹き飛ばした。それは、まるで花びらが舞っているような、もしくは、雪が降っているような、自分で言うのも何だが、美しいものだ。
「うわあ!綺麗!」
「心が洗われますね」
「いつの間に、ザイフォンでこんなこと出来るようになったんだね」
「凄いです、こんな綺麗なものは初めて見ました」
「幻想的ですね」
クロユリ中佐、ハルセさん、ヒュウガ少佐、コナツさん、カツラギ大佐が順にそう言った。
私は大満足でふふん、と踏ん反り返る。
「これは、」
アヤナミさんは驚いていて、舞い降りてくるザイフォンに手を伸ばしている。
私はそれが喜んでいるように見えたから、嬉しくなった。
「少し前に思い付いたんです。花びらを舞い散らすようなイメージで、粉上にしたザイフォンを上から降らす。まるで、雪みたいでしょう?」
「っ、・・・そう、だな」
アヤナミさんは今までで見たことないくらい大きく目を開いていたけど、なんだったんだろう?
わからないけど、でも、なんとなく、アヤナミさんが寂しそうな、悲しそうな表情をしていて、ズキリと胸が痛んだ。こんなアヤナミさんは初めて見る。いつも偉そうで態度でかくて怖くて常に上から目線で命令形ばかり(私の偏見もあるが)だったから。たまに微笑むときもあったけれど。
白いザイフォンが舞い散る中、私は思い出して、アヤナミさんに向き直る。アヤナミさんは何だと言うような目をしてきている。
私は、アヤナミさんの包帯の巻かれた腕を、慎重に、優しく触れる。
「っ、何を、」
「ごめんなさい。やっぱり少し痛むんですね、痩せ我慢は止めて下さい」
少し痛がったアヤナミさんに、申し訳なく思いながら、今度は癒し系のザイフォンを集中して出す。片手でアヤナミさんの負傷した腕を支え、もう一方の手をかざし、光が徐々に大きくなって包んでいく。
「ナコたん、やっとザイフォンを使いこなせるようになったんだね」
ヒュウガ少佐が尋ねて来た。私はアヤナミさんの腕の治療をしながら答える。
「はい。もう、みなさんの足手まといにはなりません」
「では、やっぱり昨日の事件のあの強力なザイフォンは・・・」
「私です」
誰もがコナツさんと同じく予想をしていたらしい。驚く人はいなかった。
「あれだけのザイフォンを使ったのだ。あまり余計なことにザイフォンを使うな。疲れが出て倒れたら元も子もない」
「それが、あんまり疲れてないみたいなんです。だから、大丈夫ですよ、アヤナミさん」
微笑んでみせると、アヤナミさんは無表情のまま、頭を撫でてきて、また頬を撫でる。来るか!?と思って身構えたが、アヤナミさんは頬を掴まず、
「あまり気に病むな、私の過失だ」
と言った。
私の気持ちを全部理解していたアヤナミさんに、驚いて、泣きそうになった。
アヤナミさんは続けて、
「よくやった。感謝する」
と優しげに微笑んで、褒めてくれた。
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