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「ほらほら、早くしてくださいよ」
私に銃を突き付けている男が、アヤナミさん達に言う。
軍人の人達は悔しそうに唇を噛み締め、ブラックホークの皆さんは驚いて何も言えないみたい。それもそうだ。これじゃ男装の意味が無いじゃないか。
どちらも動けないでいると、客の中の貴族の一人が叫んだ。
「その者一人の命で、我々の命が危険に曝されるくらいなら、その者一人が死んだ方がマシだ!」
他の貴族達も同意し始めていく。
ちょっと待って!ふざけんなああああああああああ!!殺さないでええええええ!!
「アヤたん、」
ヒュウガ少佐がアヤナミさんに尋ねている。
アヤナミさんは少しの間考えて、
「・・・その人質は、
殺しても構わぬ」
アヤナミさんから言われた冷たい一言。
私の脳は活動を一時中断する。
「あれ?そうなんですか?使えない人質だったなあ。死んでも僕を悪く思わないでね」
銃を強く握り締める男。
所詮はただの居候。私の存在はアヤナミさんにとっては何の価値も意味も無かったってことだったんだ。少し、寂しいなあ。
銃声が響いたのは一瞬のこと。死んだと思って目を瞑ったのに、痛みは一向に感じない。頭に銃喰らったら痛みも感じないものなのかと悟って目を開けると、私を抱きしめているアヤナミさんの姿があった。
痛みを感じなかったんじゃない、アヤナミさんが私を庇ったんだ。
私の頭に当たるはずだった銃弾は、アヤナミさんの腕に当たり、血が止まることなく流れていた。
「アヤナミ、さん」
「無事か、」
「は、はい。でも、アヤナミさんが!」
青ざめた顔で問えば、アヤナミさんは平然とした顔で大丈夫だと言う。
大丈夫なわけがないよ。銃で撃たれたんだよ?ブラックホークの皆さんは少し焦りながらアヤナミさんを撃った敵を捕獲してるし、ブラックホーク以外の軍人さんたちは驚いてまるで信じられないって顔してるし、貴族の人達も目を丸くしていて、私はアヤナミさんの言動に混乱して、血で、気が狂いそうで、
「へえー、あの参謀長官が・・・君、何者?」
捕まったその敵の男が私を見て何かを呟いていたけど、聞く余裕なんて無く。アヤナミさんは血が出ているのに、ずっと私をその男から隠すように庇ったまま。
途端、捕まった敵のリーダーが大声を上げた。
「お前ら全員終わりだ!腐った貴族ども、軍人どもは死ねばいい!」
それと同時にあちこちから爆発音が鳴る。会場が大きく揺れ、上から激しい音を立てて物が落ちてくる。
「お前は早く外に逃げろ」
「え、」
アヤナミさんはそう言うと腕を負傷したままだというのに行ってしまった。
貴族達は慌てて悲鳴をあげながら自分勝手に逃げていく。軍人達は貴族達を守るために必死で、ブラックホークの皆もそれに加わっている。
どうしよう、私のせいだ。なのに、私は、何も出来ない。逃げることしか、出来ない。どうしてあの時あんな凄いザイフォンが出せたのに、肝心な時に出せないの?アヤナミさんは、自分を犠牲にしてまで、血を流してまで、助けてくれたのに。
(助けたいか?)
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