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「きゃああああああああああああ!!」
一人の女性が悲鳴を上げ、それに続けて他の人達も騒ぎ始める。
一発の銃声が鳴り響くと、それはあっという間に止んだ。
「おまえらは人質だ!少しでも下手な動きをしたらぶっ殺す!」
「軍の最高指揮官は誰だ!!」
銃を片手に持った男二人が怒鳴る。
「この場の責任者は私だ」
前に出てきた一人の軍服を着た軍人。
「お前はここに残り、他の軍人にホーブルグ要塞の上の連中に伝えるよう命令しろ。俺達の仲間の解放と身代金だ。もし変な気を起こそうってんなら、この会場を爆破する」
「わ、わかった」
その軍人が頷くと、一人の軍人を指名して命令した。命令された軍人は全速力で走り出す。
それをじっと観察していたアヤナミとヒュウガ。どうやら敵に気付かれてはいないようだった。
「(どうするの、アヤたん)」
ヒュウガが魂を通じてアヤナミに尋ねる。
アヤナミはヒュウガを一度見ると、コナツ、ハルセ、クロユリの方もそれぞれ見やり、魂を通じて話す。
「(クロユリ、ハルセ、お前達は人質の中に紛れて人質を守れ。隙が出来次第敵に仕掛けてもよい)」
「(了解しました、アヤナミ様)」
「(はっ、)」
すう、と自然にクロユリとハルセが人質の中に紛れ混んだ。
「(ヒュウガとコナツはここ以外の敵を全滅させ、爆弾を捜せ)」
「(はっ、)」
「(アヤたんはどうするの?)」
「(私は敵の頭を取り押さえる。私達が動けば他の軍人も動き、なんとかするだろう。数だけは揃えてある)」
ヒュウガとコナツは敵の様子を見ながら感づかれないようにアヤナミから離れた。
時間だけが刻々と過ぎていく。未だホーブルグ要塞に戻った軍人は戻ってこない。
(ヒュウガとコナツはそろそろ敵を殲滅している頃か。)
アヤナミは一人心の中で戦略を立てる。
「くそっ、まだなのか!」
敵の中のリーダーらしき人物が叫んだ。
「上官になればなるほど会うのに手続きが必要になる。致し方ないことだと承知していただきたい」
責任者の軍人が冷静に答えた。だがその額には汗が滲み、緊張している姿が見て取れる。
「・・・・・・嘘には聞こえないが・・・時間稼ぎをしているのは見え見えだな。早くさせるために1時間毎に・・・いや、30分毎に人質を一人ずつ殺していくか」
その言葉に人質として捕われている貴族達は叫び、嘆きだす。誰しもが自分よりも他を殺れなどと言い出し、中には金の話を持ち出し始めた。その姿は酷く哀れである。
「試しに一人、殺るか」
貴族達の言葉には耳を貸さず、リーダーと思われる者がそう言うと、仲間の一人が銃を人質に向ける。
「(アヤナミ様、こちらの敵は全滅させました)」
魂を通じてコナツの声がアヤナミに聞こえた。
アヤナミは口角を上げると、魂を通じてクロユリとハルセに命じた。
そして、アヤナミが命じたと同時に引き金が引かれた。
どん、と銃声が鳴る。誰しもが一人死んだと思っていた光景は全く違うものだった。
銃を撃った敵が倒れ、人質の周りにはザイフォンの防壁が囲み、ピンク髪の子と青髪の青年が立っていた。
「なんだてめぇら!!」
ここにいた他の敵の仲間が銃を二人に向ける。しかし引き金は引かれることなく倒れた。その倒れた敵の後ろにいたのは、サングラスの男と金髪の青年。
「畜生が!!他の仲間はどうした!!」
「そ、それが……ぐあっ!!」
敵のリーダーが、違う部屋に配置して戻ってきた仲間に声をかけた直後、その仲間の一人は崩れ落ちた。
「仲間ならもういないよ。俺達が全員倒しちゃったから☆」
サングラスの男、もといヒュウガが楽しそうな声色でそう言った。
「(アヤたん、爆弾はここの隣の部屋の倉庫に設置されてたよ)」
アヤナミはそれを聞くと、敵の頭に歩み寄り、
「貴様に勝ち目は無い。諦めて降参しろ」
そう言うと、目にも止まらぬ速さで敵のリーダーの後ろに回り込み、首元にサーベルを突き出した。
「てめぇは!来ていたのか!!」
「私に気付かなかった貴様の負けだ」
連れて行け、というようにアヤナミが軍服を着た軍人に命令していく。
人質も解放され、事件は落着したと思った矢先、
「あーあ、もう捕まっちゃったんですか?情けないなあ」
一人の敵らしき男が姿を現した。
「遅ぇぞ!早く人質を使え!!」
「そんな急かさないで下さいよ、」
敵のリーダーが叫ぶとその現した敵は苦笑しながら銃を頭に突きつけた人物を自分の前に出す。
現れた人物に、ブラックホークのメンバーは全員、驚愕して目を見開く。
「軍人の皆さーん、僕のリーダーと仲間を解放しなければ、この子の頭に穴が空きますよー」
人質として銃を向けられていたのは、男装をした、顔を青ざめて恐怖を浮かべているナコだった。
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