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額が冷たくて、撫でられているのだろうか、ほど好い冷たさで気持ちいい。
誰かを近くに感じる。
温かいのに冷たい・・・これは、
「アヤナミさん、」
「気分はどうだ?」
「最高ですね」
美しい顔が近いですアヤナミさん。なんか坂田似なのに坂田じゃないんだよなあ。
やっぱり他人だからなあ。当たり前だけど。
でもだからこそなんだか逆に新鮮で、少し恥ずかしくなってしまう。
身体をゆっくり起こせば、そこは見慣れた執務室だった。
どうやら私はソファーに寝かされているようだ。
よく周りを見れば、心配した顔をしている皆さんがいた。
「私、図書館にいた気がするのですが・・・」
「コールに襲われたんですよ。覚えてないんですか?」
コナツさんが眉を下げ不安げな様子で聞いてきた。
「あー・・・コールって、骨の翼付けていたのですか?」
「当たり☆印付けられる前で良かったねー」
ヒュウガ少佐がそう言って頭を撫でてくれた。
「印って・・・?」
「願いを叶えると付けられるんだよ」
膝下にいたクロユリ中佐が上目遣いで教えてくれた。
くっ、ハートが打ち抜かれた。
「あの軍人さん願い願いしつこかったのはそれでですか。でもコールというのは願いを叶えてくれるんですよね?印を付けて。どうして悪者扱いなんです?周りの軍人さん達は逃げてましたし、」
「願いを一度叶えると闇に溺れて抜け出せなくなるからだよ。そして三つ叶えると、通常神の身許に行けるんだけど、行くことが出来ず、ウ゛ァルスになる」
ヒュウガ少佐が言った。
「ウ゛ァルスって・・・」
「コールの成れの果ての事だ。つまりは闇の塊、」
アヤナミさんがいつもと変わらない無表情で言った。
「ウ゛ァルスは何をするんですか?」
「・・・フェアローレンの糧になる。ウ゛ァルスは主の帰りを待ってるんだ」
またヒュウガ少佐がそう答えてくれた。
アヤナミさんの顔が少し歪んだように見えた。
この部屋の空気も重くなる。この話はタブーなんだろうか?
「でも!結果、私は願いを叶えませんでしたし、元気ですから大丈夫ですよ!」
何が大丈夫なのか自分でツッコミたくなったが、この重たい空気をどうにかしたかった。
「すまない」
「なんでアヤナミさんが謝るんですか!?」
「・・・・・・」
「・・・今度は、気をつけます」
「何故願わなかった?」
「え?」
しゅん、としていたアヤナミさんを慰めようとしたら、次はいきなり質問された。
「願いが無いわけではないだろう?コールを知らなかったといえ、コールをよく知るこの世界の者でも願いを請う。だが貴様は知らぬうえ願わなかった。何故だ?」
非常に答えづらい質問だ。どう答えたらいいだろうか、
「私達の世界でも、よく神様にお願い事をしたりします。でも、神様はチャンスをくれるけど願いは叶えてくれないと思います。まあ、たまに叶うときもありますけど。だけど本当に叶えてほしいことは叶えてくれなかったりして、結局、最後に願いを叶えられるのは自分だけなんじゃないんですかね?・・・なーんて、くさいですかね」
はは、っと笑うと皆が驚いていた。あのアヤナミ様でもいつもとは打って変わって目を開いていた。
また何か変なこと言ったか?
「変わった女だ」
変態だからですか、と尋ねるとやっぱり鞭で打たれた。
「あ、そういえば!」
アヤナミさんの鞭に痛がりながらも今思い出した事を忘れないうちに伝える。
「アヤナミさん、私がコールに襲われた時名前で呼びました?」
「・・・」
「いつもは貴様とかお前とか言ってたのに・・・今度からは名前で呼んで下さいね。そっちの方が嬉しいですから」
「・・・」
無言は了承と受けとっていいだろう。
「一見落ちゃ、」
「どうしたの?ナコたん」
固まった私に、飴を咥えたヒュウガ少佐が心配してくれた。
ありがたく思いつつ、
「あの、私が借りた本は・・・」
「知らぬ」
アヤナミさんの一言は冷たかった。
「そんなあああああああああああ!!!」
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