あ、リドルくんだ。

今日は運がいい。最近めっきりすれ違うことも出来なくなった彼が、廊下でスラグホーン先生と談笑しているところを目撃出来た。優秀な人だけが呼ばれるというパーティに、また誘われているのだろうか。ぽーっと音が出るくらい眺めれば、目があったリドルくんが微笑んでくれた。やばい、今なら死んでもいい!

「それがもう格好いいのなんのって!」

「first name、もう少し静かにしてくれる?」

相変わらずミネルバは本に穴が開くんじゃないかと思うくらい熱い視線を教科書に向けていて、少しげんなりした。そういう真面目でストイックなところが好きだけれど。グリフィンドールカラーが似合う眼鏡の彼女は、恋愛沙汰には全くこれっぽっちも興味がないのだ。

「酷い…。少しくらい話に付き合ってくれてもいいじゃない。」

頬を膨らませて、ふて腐れたふりをする。そうするとミネルバは観念して私の話を聞いてくれるのだ。

「大体あんたの話はリドルリドルって。そんなにあのスリザリンの仮面野郎がいいの?」

「だって、マグル生まれの私にも優しくしてくれるし…素敵なのよ、とにかく。」

はあ、と大きな溜め息をついて、また本に目線を落とされてしまった。友達があまり多くない私は、ファンが多いリドルくんの話を気軽にできるのはミネルバしかいないのに。聞いてくれないことを気にせず話を続けると、思い出したように彼女は言った。

「そういえば、あいつに近付かない方がいいわよ。なんだか最近、嫌な感じがするから。」

人が好きだって言ってるのにあんたって人は。しかしミネルバの虫の知らせとやらは結構な確率で当たるので馬鹿には出来ない。確かにここ数日間で彼はなんだかげっそりしているように見えた。きっとなにか難しい課題でもやっているのだろう。偶然見かけたときは禁書の棚にいて、格好いい横顔に惚れ惚れしていたら「そんなに見られたら僕も恥ずかしい」とこれまた惚れるような笑顔で言われてしまったし。その時読みに行ったミネルバおすすめの本を探すのも手伝ってもらってしまった。にやにやが止まらなくなったのも覚えている。

思い返せばその禁書の棚で会ったとき以来、リドルくんと接触する機会がとても多くなった。目が合えば微笑んでくれて、図書室では小さな声で話しかけてくれる。スリザリンの生徒はマグルを嫌っているから、リドルくんの優しさがより浮き出て見えた。

中々返事をしない私に痺れを切らしたのか、そろそろ寒いから晩御飯にしましょうとミネルバは言った。私は首を縦にふってそれに答える。ハッフルパフの私とグリフィンドールの彼女は、専らこうして廊下で立ち話が定番だ。私がグリフィンドールだったら、彼女がハッフルパフだったら、とつい思ってしまう。



「first name先輩、ちょっといいですか。」

噂をすればなんとやらで、夕飯を食べてミネルバと別れ、寮に戻る途中リドルくんに会った。彼がこんな風に呼び止めるなんて珍しい。

「なに?」

「夜、時間があるときに三階の女子トイレに行ってみてください。」

面白いものを見に行きましょう、と耳元で囁く彼の声はまるで悪魔の囁きだったに違いないと今は思う。しかしその時の私は間違いなく歓喜して、なぜトイレ?というところまで頭が回らなかった。是非!と返事をするとリドルくんは満足そうに私の頭を撫でて、よし決まりですねと笑った。


夜中に寮を抜け出すことなど、造作もないことだった。私は監督生だったし、見回りということにすればいい。
監督生と言えど頭がいいわけではない私は、この役職を重荷に感じていた。なにかあれば寮の責任を取るのは私だし(悪戯好きで活発なグリフィンドールに比べればまだいい方だけど)、地味であまり目立たない私になぜ監督生などと任命したのか不思議で堪らなかった。

ルーモス、と光を付けて暗い廊下を歩く。何度夜中に見回りをしてもこういうのは慣れない。今日は一人だからだろうか。

三階の女子トイレは薄暗く、奇妙な雰囲気に包まれていた。なにか、黒いものが個室からはみ出ている。

…人?

「随分待ちましたよ、first name先輩。」

突然後ろから声をかけられて、思わず心臓が飛び出そうになった。何事もないかのように立つリドルくんは不気味に微笑んだ。いつもは素敵な笑顔なのに。

「友達を紹介したくて。」

下を向いていて、そう言った彼は何か音を発して、次の瞬間足元に大きな物体が現れた。ドラゴンのお腹のような大きな"それ"の顔は見えない。

「バジリスクって言うんです。顔をあげてみてください。」

そう促されてぱっと顔をあげてから、私の記憶は途切れている。


「お前は知りすぎたんだよ、色々ね。」

不適に笑う彼の小さな声が、トイレの水音にかきけされて消えた。

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20130725



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