「全く君は毎回変わっとらんのう…。」 夜、寝静まったホグワーツを徘徊するのは私の趣味だ。一応、マグル学の講師だが授業は選択なので、授業が入っていない日は特にすることもない。だからこうして静かなホグワーツをふわふわ泳ぐように歩いて、たまに天文台で星を一人占めしたりするのが好きだった。マートルのいる女子トイレには近付きたくなかったけれど。 「校長先生もどうしてこんな夜中に?」 「歳のせいか眠れなくてな。しばらく散歩してから寝ようと思ったのじゃ。」 一緒に天文台までどうかの?と首を傾げるお茶目な校長には頭が上がらない。いいですよ、と快く返事をして私たちは天文台へと向かった。明かりをつけると怒られるので真っ暗闇の中を。 「first name、お主トムについて知ってることがあるじゃろう。言ってはくれぬのか?」 天文台まで来てしばらく世間話をした後、思い出したように彼は言った。多分、今夜はこのことを話したかったに違いない。ハリー・ポッターとの対決の後一向に姿を見せない例のあの人がまだ生きているのか、校長自身決めかねているようだった。 「素直にそれを聞いてくれればいいのに。」 「聞いたところでお主はなにも答えんじゃろう。いつも心のうちにひっそり仕舞い込んでしまうではないか。…のう、first name。トムはまだ生きておるのか?」 私は彼がなにをしたのか、なにを企んでいるか知っていた。しかし今は言う必要などない。私は死んで幽霊になった今も、リドル君のことが好きだった。出来れば一目会いたいとも。馬鹿で愚かな想いだ。しかし、それ故とっさに庇ってしまった。分霊箱のことを校長には内緒にしておこうと思ったのだ。 「リドル君はまだ生きてますよ。きっと、どこかに隠れているはずです。」 それだけ言い残し、逃げるように背中を向けた。校長が「やはりそうか」と返事をしたのを聞いて、私はもう自室に戻りますと急いで階段を滑り降りた。 「まだ、なにか言ってないことがあるみたいじゃな…。」 私の姿が消えた天文台で彼がなにを呟いたかなんて、想像すら出来なかった。 自室に戻るべく急ぎぎみに廊下を漂っていると、私の部屋の前に黒い塊があった。一瞬、記憶が蘇り体が震える。勇気を出して近付いてみると、それは呼吸をしていた。生きているようだ。 「あの…。」 「遅い。」 突然声がして、バッと顔をあげたのはセブルスだった。私はびっくりしたのと緊張がほどけたのとでへなへなと床に座りこむ。 「なにをしているのだ、こんな夜中に。」 「それは私の台詞なんだけど…?」 「いいからさっさと部屋へ入れんか。」 私の部屋はいつも鍵がかかっているので、先生方は私の部屋の鍵をみんな持っていた。というか、私は鍵が必要ないうえに開けられないので、私以外の人が部屋に入るときには防犯のためその鍵と、校長が特別にドアに仕掛けてくださった合言葉を言わなければ部屋に入れない仕組みになっていた。合言葉をセブルスに教えると、彼は鍵を回して小さな声で「ピンクのマカロン」と呟いた。 部屋に入って鍵がかかると、セブルスはソファーに腰掛けゆったりと話始めた。 「クィレルには近付くな。奴はホグワーツに隠された賢者の石を狙っているかもしれん。」 賢者の石、と聞いてそれを狙うならクィレルではなく別の人なのではないかと疑問に思った。クィレルはいい人だ。優しくて、生徒からもそこそこ慕われているはず。 「どうして?クィレルはそんなことしないように見えるんだけど…。」 「奴は帰ってきたときからなにやらおかしい。夜中にこそこそホグワーツの中を調べているようだ。だからfirst nameも、夜中にあまり徘徊するんじゃないぞ。見付かったら面倒なことになりかねない。」 私は疑問こそ残るものの、こういう忠告を受けるのは人生で二度目なので重く受け止めた。いくらゴーストとはいえ今の暮らしは結構気に入ってるし、どもりのクィレルになってから妙に視線を感じるなど思い当たる節も多々あったからだ。 「分かったわ。でも、あなたもあまりクィレルに介入しないようにね。それと、このこと校長には言ってあるの?」 「勿論。第一、私が校長から頼まれてクィレルの動向を探っているのだ。言われなくとも十分に気を付けている。」 では、そろそろ私も自室に戻りますかな そういうとセブルスは立ち上がり、ドアの前に立った。ピンクのマカロンという合言葉はセブルスには少し難しいらしく、余計眉間に皺がよったものだから私は思わず笑ってしまった。おやすみなさい、と手を振って、私も通り抜けられないよう魔法がかけられたベッドの上に寝転んだ。 ---------- 20130830 |