「ドラコ、first nameさんのこと好きでしょう?」
昨日first nameから友達でいることすら拒絶されてしまった僕は、人のいない朝の談話室で半ば意識なく“彼女”の話を聞いていた。が、
「なに、言ってるんだ…?」
「だから、好きなんでしょ?無理しなくていいよ。いつもいつも目で追ってるじゃない。それに、」
私が浮気したとき、あなたは私を咎めなかったわ
意識が一気に彼女の話に向けられ、僕は意味を理解して顔を赤くした。first nameのことが好きだと、本人より先に気付かれてしまった。
「普通、彼女がキスマークなんて付けてたら叱るか問い質すかするんじゃない?スルーするなんて、あなたの気持ちは完全に私から離れたところにあるのよ…。私はあなたのことは好きだけど、私を好きでないあなたはいらないわ。」
今までありがとう
立ち上がって振り返ることなる立ち去る彼女の後ろ姿を見ながら、僕は下を向くことしか出来なかった。最悪だ。彼女は僕を好いていてくれたのに、僕は彼女を見ようとしなかった。しかし、彼女に言われた瞬間にfirst nameへの気持ちを確固たるものに出来た自分がいた。つくづく酷い人間だ。
ため息を付き、立ち上がる。寮から荷物を取ってきて授業に行く準備をしなくてはと思ったが中々足は進まなかった。
「ドラコと友達をやめるですって!?」
バンっと机を叩いたのはハーマイオニー。一限目の、グリフィンドールと合同である変身術の教室には早く来すぎたためハーマイオニーしかいなかった。そして昨日の話をした結果、あの言葉に戻る。
「うん。だってドラコ酷いもの。」
「酷いのはあなたよ…。」
あーこれからドラコは…はぁ、などとため息をついてるハーマイオニーを見ながら、何がそんなに大変なのかと問うた。寧ろ私を慰めて欲しいくらいなのに。
「あのね、ドラコもあなたと同じ気持ちなのよ。」
「…友達やめたいって?」
「ばか。そっちじゃないわ。」
好き、ってことよ
ハーマイオニーの囁きを聞いて、私の顔はみるみるうちに赤くなった。嘘だ、だってドラコにはあんなに可愛い彼女が…。
「二人とも鈍いわね…そんなんだからややこしくなるのよ。」
はぁ、とわざとらしくため息をつかれた。未だに信じられない私に、ハーマイオニーは「自分で確かめたら?」とニヤニヤしながら言うだけ。結局、今日一日中そのことを考えていて授業なんて頭に入らなかった。
図書室に行くと、ドラコが一人でいた。ハーマイオニーが言ったことを思い出すと顔を赤くなる。しかし、隣を見れば彼女さんはいなかった。
これはチャンスかもしれない、と私はドラコに声をかける。
「あの…、ドラコ。」
「なんだ?僕とはもう話さないんじゃなかったのか。」
こちらを見ず、淡々とまるで事務作業のような返答。最早この時点で心折れそうだが、如何せん自分でまいた種である。自分から謝らなければ。
「あの、昨日は、ごめんなさい。」
ドラコは私の言葉を聞いてもしばらく本に目をやっていたが、ふっと顔をあげた。
「僕は今日、彼女と別れたんだ。」
私は目を見開く。別れた?もしかしたら私のせいで別れて、だからドラコは私に対して怒っているのだろうか。
「だから、その…とやかく言うやつはいないから、さっさと僕の隣に座れ。」
課題やるんだろ、とドラコが自分の隣を軽く叩きながら笑った。私は嬉しくなって、顔を真っ赤にしながらドラコの隣に座った。
------------ 20110829 |