セブルスさんの存在を知ったのは、あの「悪戯仕掛け人」とやらに苛められていたとき。初めはなるべく関わらないようにしよう、またいつものことだ…と通り過ぎようとしたがジェームズ先輩がセブルスさんに対して杖を向けたとき、つい無言呪文を彼にぶつけジェームズ先輩の手から杖を奪ってしまった。私は少し震えた声で「や、やりすぎだと…思います。」と言うと杖を床に置き一目散に寮に飛び込んだ。
私はグリフィンドールだからスリザリン生を庇う必要などなかったのに。しかも私は後輩なんだから先輩の杖を奪うなんて失礼なことを…と考えると汗が吹き出る思いだった。
同室の子に夕飯は食べないと断りを入れてその日はすぐに布団に潜った。気にすることないよ、と友達は心配してくれたが何にせよ今まで地味に生きてきたのである。それなのにあんなことを(しかも廊下の真ん中で)やってしまったのだから、明日は先輩から嫌みの一つや二つ出るんだろうなと思うと本当に胃がきりきりと痛んだ。
翌朝、誰よりも先に大広間へ行くとセブルスさんが一人で座っていた。私が入ってきたと分かると立ち上がり、近くに来て一言「すまなかった」と蚊の鳴くような声で言った。
「だが、君も関わらない方がいい。彼らのやり方は汚いからな。」
女の子が泥だらけになるのは嫌だろう?
そう言うと私の返事も聞かず席に戻って行ってしまった。裾には少し泥がついていて、もしかしたらまた苛められたのかと心配になった。が、しばらくして入ってくる学生たちに押し流されるように席に着かなければならず、話かけるタイミングを見失ってしまった。
今日一日は先輩からの苛めに怯えていたのだが、結局何も起こらないで放課後がきた。課題が少し残っている私は図書室に行き、誰も人がこない端に座る。ここはたまに図書室を利用するときの特等席で、勉強が捗るのだ。
「隣、いいか。」
どれくらい経ったろう。低い声が聞こえて、顔を上げてみればセブルスさんがいた。急いで頷くとセブルスさんは顔色ひとつ変えず隣に座る。そのまま重たそうなぶ厚い本を机に置くと彼は読み始めた。私も隣で課題を再開するが、如何せん最後の問題が分からない。本を読んでも読んでも分からないのでついに諦めて机に突っ伏した。
しばらくして軽く、背中を二度叩かれる。なんだと思って起きてみればセブルスさんの顔が間近にあった。
「どこが、分からないのだ。」
仏頂面をしているがどうやら教えてくれるらしい。
「ここの問題なんです…。」
「魔法薬学か。そこは…」
セブルスさんは本当に丁寧に教えてくれた。実践は得意だがどうも魔法薬学が得意でない私が理解できるくらいだから、そうとう丁寧なはず。
「ありがとうございました!セブルスさんのおかげです。」
「助けてもらった礼だ。それにしても、」
魔法薬学はずいぶんと苦手なのだな、と笑われた。途端に顔が赤くなるのを必死に隠しながら頭をペコペコさげる。また分からなかったら図書室に来ればいい、と言われ胸が微かに飛び跳ねた。
はじまりの音 彼の予想外な優しさに胸が高鳴るなんて
------------ 20110825 らいさんに! |