「で、出来たー!」

明け方、空が白み部屋が少し明るくなった頃、その薬はようやく完成した。私の天才的な魔法薬学の才能とスネイプ先生の部屋から頂戴した材料とで完成させた、恋の妙薬。

「魔法薬学だけでも成績良くて良かった…。」

そう、今日はこれをドラコに飲ませるのだ。七夕は日本ではお願いを短冊に書くと叶えてくれるなんていうけれど、そんな馬鹿な。去年だって、ドラコに告白したって言うのに未だに返事が来ていない。大体、私は魔法使いなんだから、神様になんて叶えてもらえなくたって…この薬さえあれば万が一振られても好きになってもらえる…!

眠りについてしまいそうな瞼を擦り、小さな小瓶を手に取る。慎重に、溢さないように、少しだけその薬を注ぐ。蓋をして、そのまま意識が落ちてしまった。

起きたときにはすでに授業が始まっている時間で、私は焦った。今日の最初の授業はマクゴナガル先生なのだ。遅刻なんてしていったらスリザリンが減点されてしまう。

仕方なく辺りを片付け、小瓶を手に部屋に向かう。体調不良ということにしておこう。自室のベッドに横たわり、そのまま夢に旅立ってしまう。仕方ないのだ、ここ最近この薬を作るためにあまり寝ていなかったのだから。

上手いことお昼頃起きるつもりだったのに、気付いたらもう夕方だ。信じられない。今日一日姿を見せなかった私に流石に先生方も心配したのか、夕飯を食べに行くと驚かれた。私は愛想笑いを浮かべ適当に返事をして、ドラコを探す。

「おいfirst name、お前今日一日なにしてたんだ。」

不意に後ろから声をかけられて肩を揺らした。この声はドラコだ。

「あ、ドラコ。」

「あ、じゃない。ったく、授業にも出ないでスリザリンの点数が下がったらどうする。これだからお前は…」

ぐだぐだと続くお説教を聞きながら(正確には聞いたふりをしながら)、ドラコと席に着く。彼はこうなると長いのだ。そういうところも好きだけど。

「ねえドラコ。お説教はもういいから食べましょう?私お腹がすいちゃった。」

「お説教じゃない!全く、first nameは僕を怒らせてばっかだな。」

まあいい、と目の前のスコーンを上品に食べ始める彼。私は甘いものが食べたくてカップケーキを手に取った。ドラコは「それはご飯とは言わないだろう」というあからさまに怪訝そうな顔をしたが知ったことじゃない。今日こそ決着をつけてやる。

「ねえドラコ、今日の夜時間ある…?」

「ん?まあないこともない。」

「あら、first nameってば私を差し置いてドラコと夜なにをするつもりなのかしら。」

いつの間にかドラコを挟んで隣に座っているパンジーがこちらを睨み付けている。しまった、こうなると厄介なんだ。

「なんでもいいじゃない、別に。」

「おい、用件があるならご飯食べた後談話室に来るんだな。」

ガタッと席を立ったドラコは口にもう一つスコーンを詰め込んだ。マルフォイのくせに行儀が悪い。お父様はあんなに上品な方なのに。

「待ってよドラコ〜。」

喉からハートマークが飛び出してるんじゃないかと疑うような猫なで声。ぶりっ子パンジー様はドラコの前ではいつも可愛く自分を偽る。寮では大股開いてベッドで大笑いしてるくせに。

話しかけるタイミングを完全に失って、残された私は一人静かにご飯にする。夜呼び出した後どうしようか。また去年みたいに、天の川でも見に散歩しようか。

「なんか悩み事?」

隣に座るよ、と腰かけたのはノットだった。ドラコと友達みたいだけれど、私はあまり喋ったことはない。

「そんなとこ。」

「ドラコ、君のこと意外にちゃんと考えてるんだよ。」

今日の授業中なんて君がいないからそわそわしてた

スリザリンに似合わない優しい笑顔。本当かどうかも信じられないのに(スリザリン生だから余計に)、その優しい雰囲気に押されて、実は両思いなんじゃないかとか想像してしまう。だめだ、振られたときに立ち直れない。

「そんなことないよ。」

ごちそうさま、と席を立つとノットはまたね、と手を振ってくれた。案外いい人なのかもしれない。



「遅い。」

談話室に行くとドラコが待っていてくれた。心なしか、彼は顔色が悪くなっている。

「パンジーは?」

「あいつには、僕に嫌われたくなかったら来るなって言った。」

酷いものだ。私がそんなことを言われたら泣いてしまう。少しだけパンジーに同情した。

「あの、さ、少しだけ散歩に行かない?」

「あー…話があるんだろう?ここで済ませよう。」

ドラコはきっと"話"の正体を分かっているのだろう。罰が悪そうに呟いた。散歩しながら言う予定だったのに、予定変更だ。みんなが食事を終えてしまう前に、さっさと済ませて終わねば。

「もし良かったらだけど、ずっと前の告白の返事、聞かせてもらえる?」

「………は?」

言った、言えた、言ってしまった!と一人柄にもなくドキドキしていたのに、なんとも間抜けな返事が聞こえてきた。は?って何よ。え?

「私のこと嫌いなの?」

「あ、いや、その」

しどろもどろ返事をするドラコに、我慢できなくなったのは私だ。ポケットから頑張って作った薬を取りだし、ドラコの口元に持っていく。

「飲んで。」

「だから僕の話を聞い」

「飲んで。」

これさえ飲ませれば両思いめでたしめでたしだ。一時でいいからラブラブになりたいのだ。この為にどれだけの睡眠時間を無駄にしたと思っているんだ…!

飲め飲まないの一歩も引かない攻防が続くなか、ドラコは最初から赤らめていた頬をさらに赤く染めて叫んだ。



「あのさ、僕ら付き合ってるんじゃなかったのか?」



これこそまさに「は?」だ。いつから?私とドラコが?

「なにそれ…。」

「だって!お前がいきなり好きだとか言うから!僕は声が出ないほど驚いて頷くことしか出来なかったんだ!そのあと手を繋いでも嫌がらなかったし、てっきり付き合ってるもんだと…」

最後の方は本当に小さな声だったのだが、確かにこう言ったはずだ。付き合っていると。信じられない。私の睡眠不足は全くの無駄だったのだ。

「じゃあ、ドラコは私のこと好きなの?」

「何度も言わせるな!」

その照れた顔が可愛らしくて、彼の熟れたような頬にキスをした。嬉しい。両思いだったなんて!

「でもなんであんなに顔色悪かったのよ。」

キスをしたことに未だに動揺している彼は、絞り出すような声で言った。

「だって別れ話だと思ったんだ。」



甘い勘違い

「で、その小瓶に入った薬はなに?」

「私が作った恋の妙薬」

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20130707
七夕のお話でした



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