「シーリーウース!」

「う、わ!ちょ、お前いきなり来るな!あっち行け、あっち!」

ジェームズに構ってもらえ、なんて言うからあたしは当然子供みたいに拗ねて、「分かった」なんて短い返事をしてジェームズのところに行く。これだからシリウスは、なんてぶつぶつ言いながら。


「これだからシリウスは、とか思ってるんだろう。」

「あ、ジェームズ!開心術使えるの?」

「Ms.first name、これくらい簡単なことなのだよ。」


顔に書いてあるからね、と言って彼はニカッと笑う。この悪戯な笑みに、私は心を奪われそうに――危ない、私はシリウスが好きなんだ。

「ごめんねfirst name。僕はリリーがいるから君の気持ちには応えられないんだ。」

「ば…!別にあんたなんか好きじゃないわよ。私が好きなのはシリウスなんだから。」

「…それにしても君たちはもどかしいと言うか。」

見てみなよ、と指差された先には離れたところのベンチに座るシリウスと女の子。

「first name、シリウスとられちゃうよ?」

あの子は私と同室の女の子だ。私を追い出してまで、2人で会いたかったのかな。頭の中を嫌な考えがグルグル交差して泣きそうになった。そう、私はただの幼なじみ。一番傍にいれるけど、本命にはなれないのよ。

「first name…?」

「…あ、ごめんジェームズ!全く…あの男本当に女タラシよね!」

昔から変わってないんだから、と中身のない声で言えばジェームズは笑って「シリウスだからね」と言った。それから、「涙出てるよ」と言いながら目元に指を添えてくれた。そんなことをするから私の涙はもう止まらなくなって思わずジェームズに抱きついてしまった。ほんと、タラシなのはどっちなのか。


「シリウスが君の気持ちに早く気がつけばいいね。」


「もう少しの我慢、だよ」とジェームズは耳元で言った。もう少し、だなんて。私はずっと待っていたのに。何度も彼が他の女の子を愛おしく見て、キスをするのをこの目で見てきたのに。そうだと良いけど、と言って笑う私は臆病者だ。



あの後、ジェームズは用があるんだと言ったので私は先に寮に帰ってきた。少し赤くなった目を見てリリーが心配したけれど、私はそんなことはどうでも良くて。私はぼーっとしていた。それはもうシリウスのことばかり考えながら。晩御飯を食べていると、隣にいたリリーは用があるからと先に帰ってしまった。何よ、みんな私を置いてけぼりにして。リリーが去った少し後に食べ終えてお風呂に入る。考え事をしていたせいか、いつもの倍くらい入ってしまった。

ようやく上がって部屋に戻れば、布団の上にあるのは手紙。見間違いなどではない、シリウスの字で「今夜9時に窓開けてろ」と書いてあった。


「ちょっと、9時ってもう過ぎてるじゃない…!」

慌ててカーテンを開ければ、そこにいたのは紛れもないシリウスで。箒に乗って窓辺で浮いていた。


「乗れ。」

「え、あ…なんであんたがここに?」

「いいから、早く。」


急かされながら乗ると、シリウスはパジャマじゃ寒いからと上着を貸してくれた。今更自分がパジャマだということに気付いて、恥ずかしさから思わずシリウスをきつく抱きしめた。

「寒いか?」

「あ、えっと…パジャマだからあんまり見ないで…?」

もう遅い馬鹿、と言ってシリウスは箒を加速させる。

「もう少しで着くから、目つぶってろ。」

「なんで?」

「内緒だ。」大人しく目を瞑る。2人は無言で、耳に入るのは箒が風をきる音ばかり。


ようやく箒が止まる。

「目開けていいぞ。」


ゆっくり目を開ければ、そこには満点の星。地上からかなり離れているのか、本当に星の群れに囲まれていた。月の周りは明るく照っていて、私は星の一部になったような錯覚に陥る。


「すごい…。」

「喜んでくれたか?」

「うん、凄いよシリウス…!」


強く、強く抱きしめれば「そりゃあ良かった」と彼のぶっきらぼうな声が私にかけられる。しばらくお互い、この星空の中に埋もれていた。


「first nameは、さ。」

不意にシリウスが声を出す。

「first nameは、星空の見える綺麗なところで…その、告白…されたいんだろう?」


私はハッとした。そうだ、いつの日だったか確かに私は同室の子たちに言ったのだ。「星が好きだから、告白されるなら夜がいいな」と。

「だから、その…。」


胸が高鳴る。こんなにも膨れ上がってどうにもならないなんていつぶりだろうか。いや、きっと、私史上初なのだ。


こんなにもあなたが愛おしい

(好きだ、という彼の声は震えていて)
(私は仕方ないからこのどうしようもない男の手を取ったのだ。)


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20110927
みさこちゃんへ



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