「せーんぱい。」

「なんだ。」


談話室には今ルシウス先輩と私しかいない。告白するなら今なのだ。兄貴分のルシウス先輩はもうすぐナルシッサ先輩と婚約をしてしまう。その前に、どうしても気持ちを伝えたいのに―――


「……何を読んでるんですか?」

「見れば分かるだろう。闇の魔術に対する防衛術の教科書だ。」


告白なんて、そんな勇気はない私は話を逸らして逃げる。ナルシッサ先輩がとても良い人であることも知っているし、なによりルシウス先輩との関係が壊れるのが怖かった。私が告白なんてしないままルシウス先輩が卒業してしまうだろう。そしたらきっとルシウス先輩の隣にはナルシッサ先輩が並んで、私のことなど忘れられてしまうのだ。仕方のないこと、なのだ。

「雨降ってますね。」

「私は雨が好きだ。」

こちらも見ずに淡々と話す先輩は、悔しいけどとても格好いい。整っているのだ。その下を向いた横顔を食い入るように見れば、ルシウス先輩はふっとこちらを向いた。

「私の顔になにか付いているのか?」

「あ、え…い、いえなにも!」

びっくりした。こちらを向いたルシウス先輩は微笑んでいて、とても優しい顔をしていたから。

彼は教科書にしおりを挟んで閉じ、こちらにより近づいてきた。


「ひかないで聞いて欲しい。」

「はい。」


顔が近い。吐息が当たる近さに先輩はいて、顔が赤くなる。




「first nameが、好きだった。」

ずっと、という先輩は見たこともないくらい優しい顔をしていて、私は息をのんだ。先輩が、私を、好き?でも先輩にはナルシッサ先輩がいる。私よりも大人で美しい人が。

「私は君のことをずっと、ずっと好きだったんだ…。」

最後の先輩の呟きは自分自身に言い聞かせているようだった。先輩はそのまま私を抱きしめ、すまない、と謝った。

「なんで、謝るんですか。」

「あまり嬉しくなかろう。」

もう婚約者がいる者からの告白など


私の後ろにまわった腕に力が入る。いつ、誰がくるのか分からないのに私は先輩を抱きしめ返した。あったかい、大好きな人。ずっとこうして抱きしめたかった人。


「私もずっと好きだったんですよ。入学したときから、ずっと。」


なんだ両想いだったのか、と先輩は耳元で笑った。私も笑った。今更両想いになったところで、なにかが変わるわけでもない。消えるべき恋は私とルシウス先輩の間にあるのだ。


お互いひとしきり笑ったあと、どちらともなくキスをした。私の初めてのキス。あたたかくて柔らかい、大好きな人のキス。


初めてのキスは
涙の味がした



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