あ、また話しかけられてる。しかもあの子、すごい可愛い。足綺麗だなあ。赤也も満更でもなさそうじゃん。 ……ムカつく。 「何ブスっとしとるんじゃ」 私がジトーッとフェンス越しに赤也を見ていると、ふと後ろから声がかかった。声だけですぐに分かる。 「…見りゃ分かるでしょ、におー。どこぞのモテモテの誰かさんを呪ってやってんの」 「おー恐ろしい彼女さんやのぅ」 そう言うと仁王はへらへらと笑った。…なんか仁王も気に食わないな、この学校のテニス部員はみんなこんなんなのか。 「あー自分に自信なくすよ、ほんと」 私はフェンスにもたれかかった。そのせいか少しガシャン、と音がする。 「綾瀬は気にしすぎやけぇ。もっと自信持って良か」 そんなこと言われても、なんて蚊の鳴くような声でぼやいた。赤也と付き合うまでは、こんなこと気になんてしていなかった。…モテる男の彼女はつらいもんだ。 「気持ちは有難いけど赤也と同じ人種に言われても嬉しくないわ」 私は不貞腐れながら仁王をじっと見た。女の子の気持ちの分からない男がどうしてモテるんだ。いや、私もそんな代表例と付き合ってるけど。 「心配せんでも赤也は、」 そこまで言ったくせに仁王は言葉を止めた。どうした。仁王の顔をぼんやり見上げるとフェンス越しに何かを見て口角を上げていた。 「じゃ、俺は走り込み行ってくるぜよ」 「え、ちょっと待ってよ、にお」 「プリッ」 私が待ってよ、と伸ばした手は仁王に届くことなく手の中を風がすり抜けた。何だか虚しい。 「せんぱい」 不意にふわ、っと風の流れに乗ってツンと私の好きなシャンプーの香りが鼻に届いた。後ろに大好きな人が立っている。すぐに分かった。 「赤也」 振り返ると少し不機嫌そうな赤也が立っていた。いやいや、不機嫌な顔したいのは私の方だよ。 「仁王先輩と何話してたんスか」 「んー?ないしょ」 「ふぅん」 気まずい空気が流れる。勘弁してよ、ほんとうに。 「…先輩、あんまり俺を不安にさせないで下さいよ」 ぼそ、っと隣で赤也が呟いた。私の聞き間違いかと思うような言葉。 「それ、そのまんま赤也に返すよ」 「だって、俺ほんっとに那華先輩のこと好きなんスよ」 あまりに真剣に赤也が言うもんだから、体の熱が上がっていく。 「私も可愛い女の子が赤也に話しかけてるとすごい不安だししんどいよ。ほんとにそれぐらい好きだよ。」 私はふう、と息を吐いた。
「でもこんなに嫉妬深いと赤也に嫌われると思っ」 一瞬のことだった。ぎゅっと抱きしめられている。 「く、苦しいよ、あかや」 「俺なんて那華先輩のこと、こんなに苦しめそうな位好きなんッスよ?」 「……赤也、はずかしい」 「そんな嫉妬だって嬉しいって思う俺は変ッスか」 抱き締められたままで赤也の顔は見えない。それでも赤也の表情は何となく想像がついた。 「ねえ、赤也、すき」 「……っ、俺も那華先輩のことすんげーすき」 そう言うと赤也はまたぎゅっと私を抱き締めた。その腕の温もりと彼に私は溺れてるみたい。
スウィート ジェラシー (その嫉妬心も愛してる)
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