最低限の荷物だけ持って家を出た。おじいちゃんたちには、親の所に顔を出してくるとか適当に言っておく。苦しい言い訳だけどしゃーない。
学校の方には、財団の人が手を回してくれるらしい。この中途半端な時期に休学か…。完璧浪人生ですね、分かります。もう一度あの受験勉強漬けの一年を送ることになるとか辛すぎる。
ああ、早くもリタイアしたくなってきました安西先生。
空条邸に行くと既にジョセフさんたちが出立の為車に乗り込こもうとしていた。
「───ま、待って下さい!」
咄嗟に大声を出し、荷物を引いてるのも忘れて皆の方へ走った。
ジョセフさん、アヴドゥルさん、花京院くんが弾かれたように私の方を向き、驚いたような顔をする。そりゃそうだ。昨日は三人に何も言わずに帰ってしまった。
私の覚悟を知ってる空条くんだけが、私の登場を予期していたように帽子の鍔を下げる。一瞬その口元が笑った、そんな気がした。
「な…っ、名前ちゃん、君、まさか…」
「っ、はぁっ、……行きます…っ、私も一緒に、はっ、行きます」
走ったせいで息が切れる。こんなに体力ないなんて大丈夫だろうか。いや、大丈夫なわけない。
私はきっと、彼らのお荷物になる。
「と、途中で、嫌になるかもしれません、弱音も吐くかもしれません、逃げ出したくなるかもしれません。でも、一緒に行かせて下さい……!」
「名前…」
アヴドゥルさんが紳士的に私の荷物を持ってくれた。こんな風に、皆に支えてもらわなきゃ私はにっちもさっちも進めない。
「名前ちゃん、わしらに、ついてきてくれるのかね?」
「いいえ、いいえ!私が我が儘を言ってるんです。私が、頼まなきゃいけない立場なんです。私は、きっと足手まといになる。でも、後悔したくないから、そんな私情でジョセフさんたちに迷惑をかけようとしてるから」
3対の目が私にそそがれる、こんな、無様で、どうしよもない私に。そこには、驚いているような、困惑しているような色があった。
「いいじゃねぇか、ジジイは最初から名字を頭数に入れてたんだろ」
「空条くん…」
今まで傍観していた空条くんの言葉に、私たちの視線は空条くんに向く。
「名字だって覚悟決めたんだ。それをぐだぐだ断るのは無しだぜ。それに、何かありゃあ俺たちで護ってやりゃあいい」
「だっ」
どん、と背を叩かれた。
何するんだと空条くんを見ると彼の緑色の瞳が何か言えと言っていた。
……あぁ、ホント、空条くんの優しさは分かりづらくていけないね。
「が、頑張ります!」
がばっと頭を下げた。
誰も話さないし誰も動かない。けれども私は同行の許可が出るまで頭をあげるものか。絶対、絶対、一緒にいってやるんだ……!
そう、長期戦の覚悟をしたとき。
「名前ちゃん、顔を上げてくれ」
「そうだぞ名前、仲間にそんなことをされては此方も敵わん」
「名前さんと一緒なら心強いですね」
「おら、いつまで固まってるつもりだ」
「いっ、だだだだだだだ!空条くん、痛い、ちょ、痛い、髪!」
空条くんに頭を掴まれ無理矢理顔を上げさせられた。ちょ、おま、これ何ていじめ?
「名前ちゃん、これからの旅路、宜しくたのむぞ」
「君の覚悟はしっかり伝わったよ。よろしく、名前」
「名前さん、頑張りましょうね」
次々に言葉を掛けられ、握手を交わす。なんて優しくて、頼もしい人たちなんだろう。
これから戦いにいくというのに思わず笑みが零れた。
───うん。がんばる。がんばるよ。