昨日は帰宅すると同時におじいちゃんたちに心配されてしまった。私が空条くんちの電話を借りて今日は帰宅が遅くなると報告した直後、何でも私が登校していないと学校から連絡が来たらしい。
そりゃあ高齢者の弱い心臓にはこたえただろう。それから制服で出掛けたのにホリィさんの服を着て帰ってきたのも悪かった。

これで(中身は滅茶苦茶いい人だけど)がっつり不良の空条くんと一緒に帰って来てたら私は祖父母に不良放蕩孫娘のレッテルを貼られ、彼らのSAN値どころか寿命は直葬をくらってたんじゃないだろうか。(心臓的な意味で)
花京院くんやらDIOのことやらで忙しそうだからと、空条くんのお見送りを断って正解だった。
取り敢えず祖父母には登校中に友人が事故にあったので病院に一緒に行ったのだ云々と適当に話を作って納得してもらった。むしろ納得してもらうしかない。

ホリィさんの服は洗濯機に入れて夜中には部屋干しした。冬場の室内というのは暖房をいれるせいか概して乾燥しているもので、幸いなことに翌朝には服は乾いていた。
ズタズタになった制服を着る訳にはいかないので夏用の薄い生地の制服を着て防寒着をがっつり着込んで家を出た。
そんな装備で大丈夫か?大丈夫なわけねぇだろ凍死するわ馬鹿!
冬場なのに前全開の空条くんの身体ってどうなってんの?まじで。あれなの、筋肉いっぱいついてるから私より熱生み出してるから寒くないの?
そんなくだらないことを考えているうちに空条邸に到着していた。


「あ、おはよう空条くん」

「名前か」


タイミングよく空条くんが玄関先から出てきて、私の持つ紙袋を見るなり何か察したのか「律儀だな」と呟いた。いやいやいや、これは常識の範囲内ですよ。


「ホリィさんに服返したいんだけどいる?」

「ああ、あいつなら……、
……む、」

「どうしたの?」

「いつもなら鬱陶しいほどつきまとってくるんだが…」


怪訝な表情をする空条くんに、ざわりと奇妙な悪寒が背筋を走った。


───刹那。


「ホリィさんっ!」


邸からアブドゥルさんの声が聞こえた瞬間、私も空条くんも弾かれたように駆け出していた。











「……わけが、わかりません」


ホリィさんを布団に横たえたあと、ジョセフさんから事のあらましを聞いたけど、正直まともに思考できる余裕なんてなくて、そもそもちゃんと話を聞くこともできなくて、本当に……全然、理解なんて出来なかった。
取り敢えず私にわかったのはDIOっていう敵がいて、そいつを倒さないとホリィさんは死んでしまうってことだけ。

部屋に息をするのも躊躇われるような沈黙が落ちて、私の呟きもそのなかに消えていった。
布団を挟んで反対にいるジョセフさんは沈鬱な顔をしているし、障子に凭れた空条くんは帽子でその表情が見えない。それが私にはとても怖いことに思えた。


「……ん、」

「っ、ホリィ!目が覚めたか!?」

「ホリィさん……っ、よかった…!」


目覚めたホリィさんにどっと安堵が押し寄せてくる。声が思わず震えた。飛び付かんばかりのジョセフさんと深い溜め息をつく私を見てホリィさんは小さく笑った。


「ほんと、あたしったらどうしちゃたのかしら。急に熱が出て気を失うなんて…。でも解熱剤でだいぶ落ち着いたわ」

「ホリィさん、よかった……本当によかった」

「ふふ、名前ちゃんにも心配かけちゃったみたいね。私は大丈夫よ?」


優しく微笑みかけられて、私は何度も何度も馬鹿みたいに頷いた。それしか出来なかった。


「びっくりしたぞホリィ、どら、歯を磨かなくては」


動けない私に代わって、ジョセフさんが甲斐甲斐しくホリィさんの世話をする顔をふいて、髪をとかして、爪の手入れをして一通りそれが終わるとホリィさんはさてと、と身体を起こそうとした。


「承太郎、今晩何食べる?良かった名前ちゃんも…」

「動くなっ!静かに寝てろっ!」
「っ!」


空条くんの放った大声に思わず私の口から小さく悲鳴が零れた。ジョセフさんとホリィさんも動きを止め、部屋の空気が一瞬凍り付いた。
空条くんも自分の引き寄せた事態に気付き、さっと帽子を下げて明後日の方向を向く。


「ね、熱が下がるまで何もするなってことだ。黙って早く治しゃあいいんだ」

「……空条くん、」


それは、空条くんにしては分かりやす過ぎる気遣いだ。凍り付いた空気が少しだけ和らぐのを肌で感じた。


「ホリィさん」


私は、ホリィさんの手を取った。
───綺麗な手。
慈悲深く、そして荒事なんて知らないこの手に目一杯慈しまれて育ってきたのかと思うと、空条くんがたまらなく羨ましく思えた。


「空条くんもああいってますし、今は休んでください。食事、私が作りますね。お粥……いえ、リゾットにしましょうか。楽しみにしてて下さいね」

「ええ、名前ちゃんの手料理、とっても楽しみだわ!」


ぎこちない笑みになった。だけどホリィさんはそれに気付かないふりをして微笑み返してくれた。


「ふふふ、病気になるとみんな凄く優しいんだもん。たまには風邪も、いい、……かも…」

「ホ、ホリィッ!」


するりと手から力が抜けていった。ホリィさんが、また気絶したんだ。
ホリィさんを抱きしめ、ジョセフさんが身を震わせる。その胸中は、いかばかりだというのか。



握ったホリィさんの手が、酷く、熱い。



「……空条くん、ジョセフさん、」


その熱にうかされるように、私は呟いていた。










「ホリィさんは、死にませんよね…?」
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -