昨日はいろいろあったけれど、やっぱり月曜日っていうのは来るわけで。学生な私は学校に行かなきゃいけないわけで。
ううう、受験生だもんね。さぼりと論外だよね……!
一日10時間勉強しろとか先生達マジ鬼だよね。数学担当とか鬼畜眼鏡ならぬおにちくコンタクトですはい。

憂鬱になりながら通学路を歩いていると前方でキャーキャー黄色い悲鳴を上げている女子の集団に遭遇した。


(ああ、これは。……うん)


知ってる。毎朝じゃないけどたまに遭遇する光景だ。
現実にこういうのあるんだね、って最初見たときに感動すら覚えたのはいい思い出だ。
そしてその中心にいるのはやはりというかなんというか。


「空条くんだよね。うん、おはよー」

「名字か」


女子生徒よりも頭一つ分も二つ分も高い彼は集団の外からでも一目でわかった。空条くんイケメンだからね。取り巻き出来ちゃっても仕方がない。しかしながら当の本人は酷くうっとおしそうにしている。
って、きみ!当たってません!?女子生徒の一人が空条くんの腕に腕を(たぶん無理やり)絡ませてるけど当たってません!?夢とロマンの詰まった双丘が当たってませんか!?


「うっ、羨ま……っ、じゃなくてけしからんよ空条くん!そんなうっとおしそうな顔してるなら私にその場所譲りやがれ下さい!逆ハーぷまい」

「何言ってかわかんねーがとにかく同じ女だろ。こいつらどうにかしやがれ」

「だが断る」


即答した。してやった。しかも超いい笑顔で。
だって空条くんと会話してるだけで女子の皆さんの視線がすごい痛いんだよ?「なにあの子」的な。私はおにゃのことハーレムはしたいけど集団リンチとかは……いえ、我々の業界ではご褒美ですねはい。
いや、その話は置いといて。


「まあ恨むなら私ではなくイケメンに生まれた自分自身とその恵まれた遺伝子を恨みたまえ。じゃねー」


女子に囲まれた空条くんを置いてさっさと石段を下りていく。その途中「やかましいっ!」と背後から怒声が響いてきた。空気がびりびりする。おー怖い。まあ確かに些か以上にかしましかったよね。
きゃいきゃいしてる女の子って好きだけど度が過ぎるのはちょっと萎えるなー。あと頭悪そうな子も好きじゃないかなー。あほの子とかは別格なんだけど。


「おい名字」

「うげ」


振り返る空条くんが私を石段の上から見下ろしていました。般若の顔とかそんなんではないんだけど元がいかついからか背後にドドドドドって見える気がする。錯覚なんだろうけど。
ひい!そんな威圧感しょったまま石段下りないでほしい。てかなんでそんな怒ってるのさ。いつもこうなんだろ君は!くそうイケメンめ……!ぎりぃ。
いやそれよりもこれって私オワタフラグじゃない?


「あ、あはははは…」

「笑ってんじゃねぇ、お前どういう了け…―――っ!?」

「! 空条くんっ!」


空条くんが石段から落ちた!
先ほどとは意味合いの違う悲鳴が女子たちの間から上がり耳を引き裂く。


「大丈夫!?そんな、いきなり……!」


スタンドを使って石畳への激突は避けたものの、左足からはおびただしい血が流れている。
私は極端に血が苦手なタチではないけど、やはり見ていて痛そうなのはあまり好きじゃない。思わず目を眇めてしまう。


「JOJO大丈夫!?」
「怪我をしてるわ!きっと落ちた時に切ったのよ!」


ようやく追いついた女子生徒たちが口々に言い募るが、それは違う、と頭のどこか冷えた部分が否定した。

正面から見ていた私には分かった。
順序が、因果が逆なんだ。空条くんは石段から落ちたから足を切ったんじゃない。足を切ったから石段から落ちたんだ。そもそも空条くんが石段踏み外すとか想像できない。

私知ってるよ!イケメンはそんなヘマしないんだよ!とか言って自分を落ち着けてみる。


(でも、いったいどういう……)


止血して、保健室で治療してもらわないと。そう思っても動揺してカバンからハンカチを出すのがもたついた。ああ、こうしてる間にも血がががが


「きみ、手当をするならこのハンカチを使うといい」

「あ、はい。ありがと…って、え?」


不意に声と共にハンカチが差し出され、条件反射で受け取ってしまった。
が、そこにいたのは私が存じ上げないイケメンさんだった。
え、まじでこんな人私知らないんだけど。こんなイケメンなら話題になってもいいはずなんだけどなぁ。
小奇麗で繊細そうな、なんて言うか空条くんとは別のタイプのイケメンくん。

彼は私や周囲の「誰おま」って視線を察したのかぺこりと頭を下げてきた。


「花京院典明。昨日転校してきたばかりです。よろしく」

「あ、はい。こちらこそ」


つられてこちらも頭を下げる。やー、日本人はこういう所が律儀で素敵だよねー、なんて自画自賛してみる。

花京院くんは「では」と足早に学校に向かってしまった。礼儀正しくて大変好感触な生徒だが何となく違和感が付きまとった。

なんというか意識がふよふよしているような、一種のトランス状態みたいな。


(……ただの不思議な雰囲気の人ってだけかも)


いやそれよりも空条くんの手当てだと空条くんに視線を戻すと空条くんは花京院くんの背中をずっと睨みつけていた。


「空条くん?」

「名字、それ貸せ」

「わっ」


空条くんは私が持っていたハンカチを半ば強引にとってそのままポケットき突っ込んだ。
あれ、それ意味なくない?


「保健室いくぞ」

「え、ちょ、なんで私も!?」


ひいい痛いです!
引っ張られる腕も氷のような視線の刺さる背中も痛いです!
ふええええ!











こんな朝っぱらから保健室は空いているものなのかと心配してたけどそれは杞憂だったみたいだ。保健室に女医の先生はいたし、ベッドにサボリ目的の不良の2人組もいる。ってか君らまだHRも始まっていないだろうにサボるの早すぎだって。むしろなんで学校来たし。


「JOJO!まさかまた喧嘩したんじゃないでしょうね!?」


あー、やっぱそう思いますよね。空条くん不良だし。でもそうやって決めつけるのいくないと思うんです。そうやって決めてかかっちゃうから子供は大人を信用出来無くなってふじこふじこ。
階段から落ちたんだ、と空条くんが告げると先生は意外そうな顔をした。


「せんせー、JOJOが喧嘩で怪我なんてしたことあるー?」

「俺はむしろそっちのコが気になるなーJOJOの彼女ー?」

「うん、思春期らしい健全な冗談ありがとう。で、お礼に捩じ切っていい?」


ひい、とそのどこか小物臭のする不良くんは股間をおさえた。
あっれー?何処とは言ってないんだけどなー?

空条くんがこんなおへちゃな私と付き合ってるなんて噂がもっかいたったら私申し訳なさ過ぎてタヒるわ。
いや申し訳云々以前に私女子に背中刺されそう。死因は痴情のもつれかっこ濡れ衣かっこ閉じとかツラ過ぎワロエない。


「あ、じゃあ私教室行くから」


何か色々考えてると空条くんと先生が足の治療のためズボンを切るだとかもったいないから脱ぐとか言い始めたので逃げようと思う。
だってなにが楽しくて思春期真っ盛りのこの繊細(笑)な時期に同い年の男子のパンツ見なきゃならんのですか!いくら空条くんでもこればっかりは視覚の暴力だよ!
お大事にね、と空条くんに言って保健室を出ると足早に教室へ向かう。

はー、助かった。ガチムチは兄貴だけで十分だよ。うん。


「早くしないとHRが始まっちゃ、」


うぎゃあああ───!


「!?」


突如、耳をつんざくような悲鳴が廊下に響いた。
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