すごっ!家広っ!
え、なに空条くんってお金持ちなの?不良で勉強できて喧嘩強くてハーフでお金持ちでイケメンなの空条くん?
なにそれただの勝ち組じゃないですか―、やだー。
冗談はさておき、ガチでハイスペックだね空条くん。もう君が亡国の王子でも胸に北斗七星があっても体に変なアザとかあっても驚かないよ。君は間違いなく主人公だよ。
いや私も私の人生の主人公なんだろうけどさ。
なんてくだらないことを考えているといつの間にか客間についていたらしい。
畳のにおいをかぐと他人様の家だというのに妙に落ち着いてしまう。
促されるままに座布団に座ると私の前にジョセフさんとアヴドゥルさんが座り、空条くんは座らずに障子の柱にもたれかかった。
大の男3人(しかもガチムチ)に取り囲まれた上、出入口を張られているだと……!
なにこれ超怖い。
気を紛らわそうと部屋を見回すと成程すごいのは広さだけじゃないとよく分かる。畳は目が荒れておらず、襖に描かれたがらは華やかながらもとこか落ち着いたふうをしていて部屋全体の雰囲気をまとめている。障子も定期的に貼り替えられているのか陽に焼けた様子もなく真っ白で、その向こうに広がる庭はただだた広い。
ちょ、あの池何なんですか!?もう船浮かべられそうだよ!
なんていうか、由緒あるお寺にきた気分です。それか物凄い高い旅館。
「それで、早速だが名前ちゃんのスタンドを見せてもらえるかな?」
「えっ……あ!はいっ」
意識があっちに行ってたからいきなり声をかけられてビビった。本当に早速ですねジョセフさん。
個人的にはもうちょい日本的に回りくどく移項して欲しかったよ。さっすがアメリカン。てめぇの為に使ってやる尺はねぇ、ってことですか。
まあやるしかないならやるけど。
「……出てきて、アナスタシア」
彼女を現出させるのは考えなくてもできる。物心つくころから一緒にいた、素敵な素敵な私の聖女様。
「ああ、こいつだ。間違いねぇ、学校で見た」
白いウィンプルに黒いヴェールをかずいた、バストアップのみの修道女の姿をした私のスタンド。本来顔があるべき部分は空洞だし、聖書を持つ白い手袋は宙にふよふよと浮いていて小さいころは何故体がないのか疑問だった。
それでも不気味に思わなかったのは、彼女が私を守ってくれる聖女様だと信じて疑わなかったからだろう。
ジョセフさん、アヴドゥルさん、空条くんの3人はもの珍しげにアナスタシアを見ている。いや、貴方がたにも似たようなのいるんでしょう?
「で、このスタンドは何ができるんじゃ?」
「え?」
思わず聞き返してしまったが、スタンドにはそれそれ特殊能力とか何かしら特化したものがあるらしい。
特殊能力っていうとエスパー的な?未来予知とかテレポートとか?因みにエスパーポケモンで好きなのはエーフィとラルトスだね。どっちもかわゆいでふ。はあはあ。
──じゃ、なくって!
えええ。特殊能力とかいきなり言われても……ねぇ?いきなり自分の長所訊かれても困るじゃないですか。うーん特殊能力…特殊能力……。
「……い、色々ですかね?」
え、なに。なんで何言ってんだこいつ的な目で見られてるの。え、酷くないですか。
私お豆腐メンタルなんですよ!?その視線はお豆腐に優しくない!
「や、ホント、結構いろいろ出来るんですよ!?いやそうでもない?いやでも応用すれば何とか……。と、取り敢えず、基本は結界能力です。他にも聖書とかアナスタシア様にちなんだ小技がちまっとありますけど!」
や、私は何故こんな必死に弁明してるんだ。
心の中で自分にツッコミを入れていると漸く三人からの白眼視が止んだ。
「……こんなに簡単に能力を我々に教えてくれたんです。ジョースターさん、彼女がDIOの手先だという貴方の心配は杞憂でしたな」
「はい?」
え、どういうことですか。脳細胞が死滅している私にもわかるように説明してほしい。アヴドゥルさんの口ぶりからして私はそのディオ?デュオ?の手先で空条くんたちに危害を加える存在だと思われたらしい。そこでそれを見極めるため色々聞いたりしたらしい。
まあ確かに自分のステータス敵に簡単に見せる敵とかいないよねーゲームだったらまじヌルゲーですわ。
ひえええ!空条くんが「どういうことだじじい」ってガン飛ばしてるんだけど!これが不良の本気ですか、そうですか。
疑問の形してるけどこれ答え聞いてないよ!疑問符ついてないもん!なんか怒ってる感じだよ!
それに対してジョセフさんはなんで苦笑してられるの?鋼なの?ジョセフさんのメンタルは鋼なの?
「名前ちゃんには詳しく話せなくて申し訳ないんじゃが、これも承太郎やホリィの安全のためなんじゃ。騙すような真似をしてすまんな」
ジョセフさんの声には何とも言い難い骨肉の情とも言うべきものが滲んでいた。ああ、この人ホント、空条くんやホリィさんを大切にしてるんだなぁ、って赤の他人の私にもわかるくらいだ。
こんな声聞いたら許すしかないじゃないか。いや別に最初から怒ってなんかいないんだけどね。
「いいえ、私なら大丈夫ですから」
「そうか、そいつぁよかった!」
一瞬で破顔に変わったジョセフさんの表情を見てこの人実は策士なんじゃ、と思ってしまった。
これあながち間違ってない気がする。
*
「別に送ってくれなくてもよかったのに」
「いや、送る。じゃねーとあいつらがうるせぇしな」
あの後結局夕食までゴチになってしまった。いやーホリィさんのご飯まじで美味しかったです。あんなメシウマなお母さん持つとか空条くんまじ勝ち組。
空条くんのあのガタイの良い体はあんなメシウマでできているのか……!
夕飯食べてるとき思わず真顔で「毎朝貴女の作った味噌汁が飲みたいです奥さん」って言ったら何故か隣にいた空条くんに無言で頭はっ叩かれた。解せぬ。
「名字」
「んー?」
「今日は悪かったな」
「ああ、食事中に私のことぶったこと?」
「ちげぇよ」
「あだっ。に、二度もぶった……!お、親父にも……
じゃなくって空条くん隣人愛って言葉知ってる!?片方の頬ぶたれたらもう片方も差し出しなさいって聞いたことある!?取り敢えず左頬を殴らせなさい!」
「いいぜ」
「へ」
「ほらよ」
ずい、と差し出される頬に思わずたじろぐ。ふええ、空条くんは横顔もイケメンだ。どうしよう。こんなイケメン殴れるわけないじゃないか!というよりイケメンじゃなくったて無抵抗の人間殴るなんてマネ私にはできません。
「あのー空条くん?冗談だからね?チキンハートの私に人なんて殴れないから」
メンタルはお豆腐でハートはチキン。ついでに言うと肉体の防御力は紙な私マジ雑魚キャラ。冒険序盤の青色スライムです。初期装備のままでも倒せちゃうよ。
「やっぱりな」
「うん?」
「お前に人なんざ殴れねぇ。俺はお前のこと何にも知らねぇがそれぐらいは分かる。伊達に不良のレッテル張られてねぇからな」
「そんなわかるんだ。すごいなぁ」
最後の一言に妙な説得力があって、思わず笑ってしまった。
「じゃあ私家そこだから」
「あの平屋か」
「そう。おじいちゃんとおばあちゃんと私で3人暮らしなの」
「両親は?」
「海外」
ふーん、と言いながらまじまじと我が家を見る空条くん。
いやいやいやおんなじ平屋だけど空条くんちのがワンランクどころかファイブランクくらい上だかんね。そんな見ないで頂きたい。
それともあれだろうか。空条くんもお父さんが海外にいるらしいし何か思うところでもあったのかな。
「送ってくれてありがとね。おやすみ」
「ああ、じゃあな」
踵を返した空条くんの背中を見て、こんな会話を彼とするなんて、先週の自分は夢にも思わなかったなあ、なんて考えた。
きっかけは“悪霊”で、空条くんは私の見え透いた嘘に騙されてくれて。
そう、私は彼に嘘をついたんだ。
「───く、空条くん!」
「なんだ?」
「え、っと」
思わず腕をつかんで引きとめたが、なかなか言葉が出なかった。
……今更じゃないか。
彼も何も言ってこないんだからこれはもううやむやにしてしまっていいんじゃないのか。
「……いい、やっぱなんでもない!」
「んだよ、言いたいことあったらはっきり言いやがれ」
「や、気を付けて帰ってね、って言おうと思ったんだけど空条くんには余計なお世話かもしれないなぁ、なんて思い直して。スタンドいるし、むしろ空条くん強いし」
苦笑しながらそう誤魔化した。
夜でよかった。じゃなかったら私の顔を見た空条くんにまた嘘をついているとばれてしまう。ははは、情けない。
「引き留めてごめんね空条くん。貴方の上に主とその御使いの助けがそそぎますように!アーメン!」
なんちって。