先日の空条くんドッキリ事変から数日たった日曜日、私は漸くのアタラクシアを手に入れた。
嗚呼、散歩してるだけなのになんでこんなにすがすがしい気分になるんだろう!

あの後私は散々女子の皆さんに詰問されたのだ。空条くんは自分がどれだけ女子に人気かわかってるんだろうか。
挙句私が空条くんに喧嘩売っただとか、私が空条くんと付き合ってるなんて噂まで流れたのだ。私と空条くんがオツキアイだとかまじワロエない。
「JOJOと付き合ってるの?」なんて訊いてきた女子に「オツキアイって何すればいいの?お手て繋げばいいの?乳繰り合えばいいの?」って真顔で返したらドン引きされた。
しょうがないじゃん。そんだけ私の精神はグロッキーだったんだよ。察してくれ。私だって普段なら真顔で乳繰り合うなんて言わねーよ。けっ。


「Excuse me?」


嫌なことを思い出して少し荒んだ気持ちになっているとリスニングのCDみたいに綺麗な発音が聞こえてきた。びっくりしてそっちを向いてみると外国人のおじいさん(おじさん?いや、わかんないや)の二人組がいた。白人さんと黒人さん。
観光客か何かなのかな。
いや、自分の町disるわけじゃないけどさ、観光行くなら別のとこにした方がいいと思うんだ。奈良とか京都とか。ほら、外国人の人って未だに忍者とか侍とかいるってガチで信じてる人いるじゃん。都市伝説だよそれ。
忍者も侍も絶滅したけど京都行けば舞妓さんいるしワンチャンありじゃね?とか思うんですよ。


「あー、えと、アイキャントスピークイングリッシュ。プリーズ……えと、プリーズ、」


プリーズして何するつもりだ自分。英語の成績は我ながらなかなかだと思ってるけど理論と実践は違うのよ!成績良くても英会話なんてできない日本人なんてごまんといるんだよ!
あああ、どうしよう。こういう場合は何?お巡りさんなの。迷子の仔猫ちゃんとか言うにはゴツすぎるおっさん二人だけどお巡りさんに頼っていいの?そうなったらお巡りさんまじ涙目わろすわろす。

なんて考えていると。唐突におじいさんが笑い出した。


「はっはっは、いや悪いなお嬢さん。わしが日本語で話そう」


おおう日本語上手いねおじいちゃん!
──じゃ、なっくて!
話せるなら最初からそうしてくれよ!


「わしはジョセフ・ジョースター、こっちはわしの友人でアヴドゥルという。お嬢さんの名前は?」

「はぁ……名字名前です。それで、ジョースターさんは私に一体何のご用でしょうか?」

「いや、何、孫の知り合いにスタンド使いがいると聞いてな。ちっと興味があったんじゃ」

「おっしゃる意味がよく分からないんですが…」


柔らかく言ったがぶちゃけ日本語でおk?状態だ。孫ってなんだ孫って。私外国人の知り合いいませんよ。
そもそもスタンド使いって何?お使いとか召使いの仲間ですか?私パシリなの?ちょ、説明ください!


「ジョースターさん、彼女はスタンドが何かわからないといったような顔をしていますが」


ずっとジョースターさんのターンだったのだが、今まで黙っていたアヴドゥルさんが会話に入ってきた。
おうふ、貴方も日本語お上手ですねアヴドゥルさん。とてつもなくエキセントリックでエスニカルな髪形してる貴方から流暢な日本語が聞こえてくると違和感がものすごく仕事してくれます。もう過剰労働です。
いや物凄く助かるんですけどね!アラビア語?エジプト語?話されてもわっかんないしね!


「ああ、すまんな名前ちゃん。スタンドとは魂のヴィジョン、己の傍らに立つ者。──そう、例えばアヴドゥルの後ろに立っているような」

「ぅわっ!?」


ひぎゃああああ!アヴドゥルさんの背後にぬっと鳥頭の人間が現れた!うああああ怖い怖い怖い怖い!まじ怖い!これ何てホラー?
あれ、前にもあったよこのパターン。


「これが見えるということは君もスタンド使いだということを示している」

「え、いや、その、」


あ、なんか雲行きが怪しくなってきた。
ジョースターさんから悪意とか敵意とかは感じないけど、寧ろ純粋な好奇心って感じだけど、何かこれ以上いたら面倒になる気がする。これは女の勘。
いや私の女らしさなんて、乙女ゲームの主人公の中にしか存在してないんだけどね!
面倒になる前に逃げよう。さりげなくここを去ろう。
覚悟はできているか?私はできてる。


「あ、あの。すみませんが私、用事がありま」
「おい、じじいども、2人して何やってやがる」


(あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!)


勇気がっ!私のなけなしの勇気がっ!台無しになっちまったよ!

どうしてくれるんだよ畜生めっ!半ば怒りを感じながら声のした方を向くと。


「あ」

「ん?」


帽子と長い学ラン。宝石めいた緑の瞳。
これは、間違えようもなく、


「………………。







   ────く、空条くん?」


「それ意外の誰に見えんだよ」

「ジーザスッッ!」


うっわ叫んじゃったよ!でもしょうがないんだよ!君があんなことしでかしてくれたせいで私のSAN値はマッハだったんだよ!
イケメンだからって何しても許されると思うなよ!いや許すけど!


「ってか空条くん拘禁場入ったって聞いたんだけど」

「昨日出てきた。寧ろそこのじじいに引き摺り出された」

「え、じゃあジョースターさんの孫って」

「俺だ」

「えぇぇぇぇ!?」


ぽーんて!
目玉ぽーんって飛び出たよあたしゃ!
……いやAAの話なんですけどね。

まあ確かに空条くんってハーフだって聞いてたしあの緑の目も体格もきっと外国の血なんだろうなとは思ってたけどさ。びっくりするじゃん。


「で、じじいに何吹き込まれた?」

「吹き込まれたとは人聞きの悪い。昨日お前がクラスメイトにもスタンド使いがいるようなことを溢しておったのを聞いてな。興味があったんでアヴドゥルの占いであたりをつけて話をしようと思っておっただけじゃ」


なにそれ凄い。アヴドゥルさんって顔に似合わず占いとかするの?乙女なの?ねぇアヴドゥルさんって乙女なの?
で、会話の流れからして今このめんどくさい状況って空条くんのうっかりポロリが原因でおk?ポロリもあるよってことだったの?
畜生そんなポロリいらなかった。

「名字はDIOとは関係ねぇだろ。無関係な人間巻き込んでんじゃねぇ」


ふええええ!イッケメーン!
ジョースターさんと私の間に入ってくれた空条くんがイケメン過ぎて辛い。イケメンは精神的にもイケメンだった。
今までさんざっぱら心の中で言っててごめん。不良だと思ってたけど実際関わってみるとそうでもないんだね。
見た目おっかないけど空条くんはいい人だわ。今後認識を改めよう。





──で、私は一体いつおうちに帰れるんですかね?
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