馬鹿ね、なんて。
「ね、スザク」
私が言えた義理ではないのだけれど。
「何?名前」
こちらも見向きもせずにデスクに向かっている茶色のくせっ毛。
「報告書?」
「ううん、それは昨日書いたから」
「じゃあホームワークね。そんなの別にやらなくたって死にゃあしないのに」
真白い軍服のまま勉学に勤しむ姿は些か以上に滑稽で結構。
「何いってるんだよ」
優秀な分だけ増える仕事と、ジャケットの皺。
代わりとばかりに減っていくのはスケジュール帳の白いページ。
「皆やってるんだから僕もちゃんとやらないと」
不満を示すように足先で床を打ってみた。
乾いた音。履き慣れたブーツの爪先は擦り減ってる。
あぁ、そう。私も堪え性がないの。
「…………そんな風にされたら課題ができないんだけど」
「ん、分かってる」
「じゃあ離しなよ」
「キスしてくれたら離すかも」
目先のことばかりの馬鹿な女。
貴方の課題が終わらなかろうが、呆れた視線が返ってこようが全然気にしないもの。
「…構って欲しいの?」
けど貴方も大概馬鹿なのよ。
「ちょっと惜しい──けど違うわ」
その翡翠が、孕む熱を巧妙に隠したつもりになって。
「欲しい、の」
もういっそソファーでも。
床だっていいんだから。
中途半端に焦げ付く神経を焼き切ってしまいたいわ。
トワネットの傲慢な憂鬱
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幸福も欲も底無しなのは同じなのよね