「名前、これも関連資料なんじゃないかい?」


資料となる書籍を探して彼女が聳え立つような書架を見上げていると不意にそんな声が背中にかかった。


「ありがと。早いね切嗣」


切嗣と呼ばれたのはその長身を黒い外套で一分の好きもなく包んだ、青年というには些かとうのたった男だ。彼女は背後に佇む男に軽やかに返しその本を手に取る。


そのやり取りを周囲の人間たちは刺すように、或いはなめ回すように凝視した。


「……英雄ナポレオンか」


無理もない。
聖杯戦争の勝利の鍵はいかに多く敵サーヴァントの情報を入手し、戦闘に於いてその対策を取ることである。


「経歴を考えるとやっぱクラスはライダーかな」


故に、マスターたる魔術師たちは自身のサーヴァントをひた隠しにして情報の漏曵を防ぐと同時に敵サーヴァントの情報収集に躍起になっている。サーヴァントの姿を見せることは勿論、真名を呼ぶなどもってのほかである。


「物理攻撃系が多そうだからその対策をしないと…──」


そんな状況下で敵サーヴァントが現界したのだ。視線の嵐に晒されぬはずがなかった。


そう。
切嗣───衛宮切嗣は名字名前のサーヴァントだった。


だが、名前も切嗣自身も衛宮切嗣という存在を隠そうとしない。
その理由を説明するにはまず、切嗣のその特殊性を言及する必要が出てくる。
月で発見された巨大な演算装置ムーンセル。そこで行われている魔術師が最後の1人となるまで戦い続けるトーナメント、通称聖杯戦争は地上で行われていた聖杯戦争を模したものだ。故にムーンセルの聖杯戦争に登場するNPCの内の何人かは地上であった聖杯戦争に所縁のある人間を元にしている。
言峰綺礼然り間桐桜然りである。
そして切嗣もまた、地上の聖杯戦争に関わった者であり、彼は本来NPCとしてこの聖杯戦争に登場するはずだった。
しかしながら何か手違いかバグが起きたらしく切嗣は名前に召喚されてしまったのである。


──問おう、君が僕のマスターか?──


それは正しく、サーヴァント・衛宮切嗣の誕生であった。


当初名前はバグから派生したサーヴァントなど納得がいかなかった。仮にも命を預ける存在なのである。しかし言峰に掛け合ってみても、すでにサーヴァントという重要なプログラムとして確立してしまった切嗣をどうこうするのは時間がかかるぞと言峰に悪どい顔で言われてしまい、渋々引き下がるしかなかった。ただ、そんな切嗣にも───というか、そんな切嗣だからこそ利点と呼ぶべき点があった。
前述したようにこの聖杯戦争の鍵はサーヴァントの情報である。歴史に名を残した英霊はまだしも聖杯戦争に参加していたとはいえ一介の魔術師に過ぎなかった切嗣の情報など入手できようもない。故に真名が晒されようが何だろうが切嗣の能力がばれることはない。
つまり、聖杯戦争という情報戦に於いて、切嗣は圧倒的に優位な立場にいるのである。


「まあ何とかなりそうね。手堅く勝ちに行けばいいわ」


幾つかの本を宛がわれた部屋に持ち帰り、名前はベッドに寝そべりながら無造作にページをめくっては閉じめくっては閉じを繰り返す。


「手堅く、ね」


彼女の言葉を復唱して切嗣は喉の奥で笑った。黒いシルエットがかすかに揺れる。


「あんたが破壊工作スキル持ちなのは知ってる。やるかやらないかはあんたに任せるけど」

「任せる、か……『やるな』とも『やれ』とも君は言わないのか」

「あら、ブラックモア卿のとこのサーヴァントみたいに束縛される方が好み?」

「いや、」


切嗣が小さく首を振ると、だったらいいじゃないと帰ってくる。


「あんたが現界してられるのは私の魔力のおかげだし、私はあんたのマスターだけど、実際戦ったり傷付くのは切嗣でしょ。だったら切嗣のやりやすいようにさせるよ」


サーヴァントは聖杯を得るための道具に過ぎない───そう思っている魔術師が少なからずいるなかで名前に召喚されたことは幸運だったと切嗣は思う。
かつて自分がマスターだったとき、果たして己のサーヴァントにどんな言葉を掛けていただろうか。


「期待してるよ、切嗣」


なんの忌憚もなくこう言うことが出来たら、違う結末が訪れていたのだろうか。


「……あぁ、ありがとう」


月明かりの差し込む部屋で、切嗣はかつて自分が従えていたサーヴァントに似た年頃のマスターの前髪をくしゃりと撫でた。








色んな所で「切嗣夢は難しい」ってきくけどホントそうですよね。
だったら本編とは別次元のextraだったら行けるんじゃ、と思ってやらかしたのがこれです。

以下、ぼくの考えたかっこいい切嗣。
基本ステータス
筋力C
耐久B
敏捷B
魔力B+
幸運E


宝具
【起源弾】C
粉末にした自身の肋骨の骨を込めた弾丸。「切って嗣ぐ」という切嗣の起源を反映した不可逆な破壊と変質をもたらす弾丸。魔術師殺しの真骨頂。キャスタークラスに有効なのは勿論のこと、マスターに使用しても有効。

【固有時制御(タイムアルター)】D〜B
衛宮家の時間操作の魔術を切嗣が戦闘用に特化させたもの。自身の体内の時間経過速度のみを速めることで高速移動が可能になる。ただし、解除後は世界からの修正力を受け、身体に負担が掛かる。


固有スキル
【魔術師殺し】Ex
多くの魔術師を葬った経歴を持つ証。キャスタークラスのサーヴァントや魔術を行使できるサーヴァントに対して有利になる。また、無条件で対魔力Bが付加される。
【単独行動】A
マスターからの魔力供給なしでも現界できる能力。ランクAならばマスターを失っても1週間程度現界していられる。
【破壊工作】B
戦闘の前に相手の戦力を削る才能。ランクBなら相手の戦力を最大4割まで削ることができる。ただし、このスキルのランクが高いほど英雄としての霊格は低下する。


こんな感じでしょうか。ランクってどれぐらいが妥当なのか分からない。サーヴァントクラスはアサシンと見せかけてアーチャー。あとは特別枠なスナイパーとかでも良いよね。
スキルはもっと増やしたいけどextraは基本3つっぽいからな…。
もっと増やすなら直感か心眼、あとは魔力あたりが妥当かしら。
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