「起きろ、名前」

「……ん、…きれい…?」


その身体を揺すって目覚めを促すと女はゆるゆると意識を取り戻した。燭台の炎が。


「寝るなら部屋で寝ろ。夜は此処は冷える上、何より教会の長椅子はベッドではない」

「良い夢を見てたの」

「夢?」

「蛇に唆されて神を裏切って、蛇と二人、地獄に堕とされる夢。……蛇は言ってくれたの、神を裏切ったら愛してくれるって、」


それは創世記を思い出させた。


「蛇は牙を持っていた。一緒に堕ちてゆくとき、蛇は私に絡みついて、その牙を私に突き立てた。その瞬間、私、……あぁ、私、何だか堪らなくぞくぞくして…───」


女が恍惚した表情で手を伸ばしてきて、私の顔に触れた。


「……ねぇ、綺礼」


何を裏切れば貴方は私を愛してくれる?
赤く熟れた唇はそう囁いた。


「正義?道徳?倫理?それとも…───ん…っ」


続きを遮るように唇を塞いだ。熱い、ともすれば蕩けるような舌が絡み合う。燭台が床に落ちる。部屋に闇が堕ちる。
名前の目が一瞬見開かれ、しかしゆっくりと従順に閉じられた。長椅子に横たわる女の上に覆い被さり、その身体をまさぐった。
寝起きの身体には熱が籠り、肌は上気し、ともすれば情事後のそれのようだ。


「っは……ぁ、きれ……」

「お前は蛇に牙を突き立てられたと言ったな」


───蛇の牙。
フロイト的に言えば夢に出てくる尖ったもの、突き出たものは全て男性器の象徴である。それが彼女の身体に食い込んだのだ。人間の原体験に当て嵌めれば───つまりはそういうことだろう。








書いてて着地点が分からなくなった。
タイトル予定だったのはぱらだいすろすと。
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