「おい」
お声と共に足元に何かが放られた。手に取ってよくよく見ればそれは懐刀だった。装飾過多、絢爛豪華を好む王にしてはシンプルな造りではあるが、流石はこの世のあらゆるものと者をその手中に収める王であらせられる。純銀のそれは何処までも優美にして美麗であった。
「貴様は自分は我のものだと言った。身も心も魂さえも我の所有物になると言った。なれば我の命に従い、その命を自ら散らしてみせよ」
「今、この場で、ございますか?」
「……何だ。今になってあの言葉を覆すのか。雑種の分際で畏れ多くも我に虚言を申し、我を欺いたというのか」
「いえ、どうすれば御前を汚さずに死ねるか、愚考していたのです」
「な……、」
「ですがいくら考えても駄目でした。至らぬ娘で申し訳ありません。御英雄王におかれましては、御前を穢らわしき血で汚す無礼を寛大な心でお許し頂きたく…──」
「!、───愚かな!止めよ!」
あの赤い瞳が見開かれた気がした。
しかしそれを確認するより先に私の視界は私から迸った赤で埋め尽くされてしまった。