足元で魔方陣がその存在を誇示するかのように目映く輝く。同時にそこから颶風が吹き荒れ、思わず膝を地に落とした。傍らで糸が切れたかのように崩れ落ちてゆくドール。予選の段階で一時期に与えられた、疑似サーヴァント 。
そして今、動くことのなくなったそれの代わりにこの光の洪水から新たな存在が現出しようとしている。
圧倒的な力が集結してゆくのを感じて思わず肌が粟立つ。
来る。迫ってくる。
人には過ぎた存在がこの光と風、そして力の奔流の中から。


(くっ……)


俄か光と風が強くなる。耐えきれずに目を瞑った。瞼の隙間から閃光が目を灼いて…──










































───コツ。





唐突に訪れた静寂のなかで靴の底が床を叩く音が響いた。
閉じていた目をゆっくりと開く。

世界が白くぼやけている。(何かがそこに立っている。)
まだ目が慣れていないのか。(それは人間のカタチをしている。)
何度か目を擦ってみる。(それは男のようたった。)
次第に目が慣れてくる。(男は黒いコートを纏った姿だ。)
視線を上に上げていく。


───黒い瞳と、目が合った。


「問おう」


低く、厳かな声が響き渡る。


「君が僕のマスターか?」


たったそれだけの言葉なのに雷撃を受けたかのような衝撃が彼女の全身を襲った。思わず視線を外して自分の胸を掻き抱いた。
この問いに頷いたその瞬間、きっと全てが変わる。全てだ。自分も、自分を取り巻く世界も、或いは自分を形作った軌跡さえも。
それはある種の予感にして確信。
その確信が彼女の返答を鈍らせた。変わるというのは不可逆だ。変われば、もう前の自分には戻れない。
だが。


(後戻りが出来ないのは始めからじゃない)


そんなことは聖杯戦争に参加していたときからわかっていた筈だ。覚悟なら既にしただろう。


(───何を畏れている)


俄かその瞳に意志が宿る。
顔を上げて、男の瞳を射抜く。
沈黙を通していた彼女を胡乱げに見詰めていた男は不意のそれに僅かに驚嘆した。そして、彼の相貌は笑う。悪くない目だ。


「もう一度問おう。───君が、僕のマスターか」


差し伸べられた武骨な手。
ここから、始まる。


「えぇ、」


手の甲が灼けるように熱い。それに構わず男の手を取った。そこには3つの模様を組み合わせたような複雑な紋様が赤く浮かび上がっていた。


「私が貴方のマスターよ」
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