「哉太のバカ!」
私はベッドの上に置いてあったぬいぐるみを哉太に投げつけて部屋を勢いよく出た。
たった今、私は哉太と喧嘩した。
原因は私…ではなく十中八九哉太にあると思う。
(だって…おかしいよ、酷いよ哉太…)
話は遡ること3月。
哉太の誕生日に私はネックレスをプレゼントした。
哉太は小さい時からオシャレでピアスを開けたり、ちょっとゴツめのリングをしたりしていた。校則違反とかそんなの関係ない。私はそんなオシャレな哉太が大好きだったし、何より哉太は身に付けるもの全てにおいてセンスが良かった。
そして哉太がお守りのようにいつも付けているネックレス。
それが最近錆びてきたと前に呟いていたことを思い出した私は思い切って哉太にネックレスをあげようと決めた。
メンズのアクセサリーなんて全然詳しくなかったから、犬飼君や白銀先輩に聞いたりして私は一生懸命選んだ。そして哉太のイメージにぴったりのひとつを見つけた。それは若干私の予算をオーバーしたのだけれど、哉太の喜ぶ顔が見られればそんなのどうってことないと思った。
「名前、ありがとな。これ…大事にすっから」
とびきりの笑顔で私にそう言った哉太。
すっごく喜んでくれたのは事実だ。
でも、それだけなのだ。
哉太は次のデートの時も、私があげたネックレスではなくいつものネックレスを身に付けてきた。私は最初特に気にしなかったけれど、その後何ヶ月もずっと私があげたネックレスを付けてくれる気配はなかった。
(やっぱり哉太の趣味に合わなかったのかな…)
私はしゅんと落ち込んだ。
プレゼントをあげた側としてはやっぱり相手に使ってもらいたい。ネックレスを付けてくれると、それは私を感じてくれてるみたいで心が温かくなるからだ。
だから私は思い切って哉太に聞いてみることにした。
「ねぇ 哉太」
「んー」
「哉太、私が誕生日にあげたネックレスどうしてる?」
「…っ」
「もしかして捨てちゃった…?」
「そんなことあるわけねーだろ!……ちゃんとあるよ」
「でも…哉太、全然付けてくれないね…。哉太の趣味に合わなかったかな…」
「違ぇよ」
「っ!じゃあ何で?何で付けてくれないの!?」
感情が少し高まって私は声を荒げてしまった。
すると哉太は信じられない一言を私に言ったのだ。
「っ…。つ、付けようが付けまいが俺の勝手だろ!」
-- バシン!
そして冒頭に戻る。
いくらなんでも酷すぎると思う。
「気に入ってないなら気に入ってないってはっきり言えばいいじゃない…」
哉太のバカ。
バカバカ、バカなた。
私は近所の公園のベンチに座り、拳を握り締めた。視界が滲んで見えるのは私の目に涙が浮かんでいるからだろうか。
「哉太の、バカ…」
「人をバカ呼ばわりしてんじゃねぇよ」
振り返ると、息を切らして駆けつけてきた哉太がいた。
私を、追いかけてきたの…?
そして哉太の手には見覚えのある小さな袋が握られていた。
「名前…」
「な、なに哉太?私まだ怒ってるんだからね!」
「勝手に怒んのも拗ねんのも、俺の話聞いてからにしろ」
「な…、」
「頼むよ…」
私の背後からぎゅっと抱き締める哉太。
その体温に、胸が熱くなる。
そして私は哉太が持っている袋に気づき、指差す。
「哉太…これ、」
「名前がくれたネックレス。この中に大事にしまってある」
「なんで…」
「お、お前がくれた物なんだから当たり前だろ!!」
「え…、」
「大事すぎて、使えねぇよ…」
顔を真っ赤にさせて呟く哉太。
最後の方は消えそうな声だった。
今の哉太、耳まで赤い。
「名前…?」
「――― ぷっ、あはははははははっ!!!」
なんだ、よかった。
哉太は大事にしてくれてたんだ。
むしろ大事にしすぎて使えなかったんだ。
袋も、包装も、丁寧に畳んで取って置いてある。
よかった、本当に、よかった…
「名前がくれたプレゼント、捨てるわけないだろ?それに何の理由があって捨てなきゃなんねぇんだよ」
「哉太が気に入ってないと思ったの!」
「はぁ?俺これめちゃくちゃ気に入ってんだぞ?」
「だったら付けてほしかったの!」
「じゃ、こうするか」
そう言って哉太は自分の首に付いているネックレスを私に付けた。そして袋から私があげたネックレスを取り出し、自分の首に付けた。
「おお、似合うじゃん」
「哉太、重い」
「俺の愛の重みだ、バカ名前」
哉太の首に付いたネックレス。
真新しいシルバーのそれはとても哉太に似合っていた。
「…似合うか」
「似合ってるよ哉太。かっこいい」
私がそう言うと哉太は照れ臭そうに笑い、ちゅっとキスをくれた。
それはいつもの不器用で乱暴なキスとは違い、優しくて可愛らしい、甘い甘いキスだった。
‥fin‥