流星


空を駆ける流星たち この目に涙溢れ出す…











ふと見上げた夜空。
ついこの間まで今の時間帯では夏の大三角が見えていたのに今はもう秋の星座…
目立った星はないけれどそれでも探してしまう。あなたの星座を。

遠く離れた異国の地で頑張っている羊君との遠距離恋愛。それは想像以上に寂しくて、私は何度も心が折れそうになった。自分で選んだ選択肢なのに、寂しさで胸が張り裂けそうになる夜もあった。その度に、彼は私の気持ちを先回りしてか決まって電話してくるのだけど。
今夜はそれがない。
自分から電話しようと試みるけれど、不規則な生活の羊君だからもしかしたら今は出られないかもしれない。
着信に気づけばいつもすぐに折り返してくれるけれど、いまだに申し訳なく思ってしまう。

「気にしないでかけていいのに」

羊君はそう言うけれど、研究の邪魔をしたくない気持ちが勝り、やはり気を遣ってしまう…。
これが遠距離恋愛なのかもしれない。
直接顔を合わせて話せる距離感とは違う、電話越しでの恋愛。
自分でそれを選択したはずなのに弱っている夜は心細くなる。


(羊君…会いたいよ…)


手紙じゃ遠すぎて、会えれば近すぎて、鍵かけた言葉。
そっと心の中で呟く。



trrrrr…


不意に着信が鳴る。
携帯画面を覗くと待ちわびていた彼の名前が表示されていた。ドキドキと高鳴る胸を落ち着かせ、平常を装って私は電話に出た。



「もしもし?」

『………』

「羊君?」

『……した』

「え?」

『…また我慢した』

「…っ」


顔は見えないけれど、羊君は悲しそうな声をしていた。
私は寂しいと直接彼に言ったわけではない。だけどどうしてだろう…なんでいつも私のことがわかっちゃうんだろう?
羊君の声を聞いただけで今すぐにでも泣き出してしまいそうな自分を制御して私は必死に言葉を紡ぐ。


「羊君…」

『名前は甘え下手だからなかなか僕に言ってくれないけど、もっと僕に甘えていいんだよ?』

「なんで私が我慢してるってわかったの?」

『ふふっ 不思議だよね。僕にもよくわからないんだけど、空を見上げていると時々名前が泣いてるような気がするんだ』

「え…?」

『ねぇ知ってる?星はいつも僕らの上で輝いているってこと』



昼間は太陽が昇って明るくて見えないけれど、僕らが気にしてないだけで星は変わらずに輝いているんだよ。
名前の大好きな星はいつも僕に教えてくれる。
“名前を泣かせてないか?”“寂しい思いをさせてないか?”ってね。
だから、空を見上げていると名前の顔が浮かんでくるんだ。
最近また忙しくて君に連絡できてなかったけれど、今日の名前は寂しさを我慢している感じがしたから…


『当たってるでしょ?』


心が折れそうな時に私は何も言えないままだったのに。
羊君はちゃんと一つ一つ言葉にしてくれる。
瞳逸らさず見つめてくれた羊君に、私も今は言えるのかな…?


「羊君…ごめんね」


寂しかった…


『よく言えました』


電話越しで羊君がふわっと笑ったような気がした。
言葉にしたことでもやもやしていた気持ちがすぅっと薄らいでいく。


『僕もね、名前に会いたすぎてどうにかなっちゃいそうだから、今月末日本に行くよ』

「え??」

『今すぐには行けないけれど、もう少しだけ…待っててくれるかな』


突然の報告に私は手が震える。
「勿論!」と返答していた頃にはすっかり私の気持ちも晴れやかになっていた。
それから少しだけ他愛のない会話をして、電話は切れた。









空に散った星のビーズ 繋いで二人結びたい




見えない距離に怯えないで。
でもやっぱり、不意になぜか泣けてきちゃうのは…羊君だけを想うから、だよね?

羊君と私を繋ぐループ 明日のことはわからない



『でも、この手だけは離さない』


君に今、誓うから。









‥fin‥



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