願いを、流れ星にかけて。


























「あ、流れ星…」



真っ暗な闇の中を一瞬にして駆け抜けた一筋の光を見つめ、私は小さな声で呟いた。
そんな私を見て、錫也は優しく問いかける。



「願い事はできた?」

「ううん。でもちゃんと見えたよ」



そう言うと錫也は「そっか」と嬉しそうに微笑んだ。
そして抱き締められている腕の力がふと強くなる。
ただそれだけなのに、私の隣にちゃんと錫也がいるってことを実感できて嬉しくなる。
互いの吐息がはっきりと聞こえる静寂の中で、私たちはベッドに腰掛け、大きな窓から夜空を見上げていた。


今日は流星群が見られる夜。
何時間も前から私たちは寄り添い合いながら流れ星を待っていた。
そして先ほど私は漸く瞳に光の筋をひとつ映すことができた。



「まだあんまり見えないね」

「ははっ お前はせっかちだな。まだピークの時間じゃないだろ?」

「だって…錫也と一緒に流れ星早く見たかったんだもん」

「焦らなくてもこれからちゃんと見えるよ」



錫也はそう言って私の首筋に顔を埋める。
耳の後ろの方で錫也の息遣いが聞こえる。
それはいつまで経っても慣れることはない錫也の愛情表現。
くすぐったくて、恥ずかしくて、それでいて心地よい…
私はとても不思議な気持ちになる。
錫也に触れられる箇所が熱を持つ。
きっと今の私は耳まで真っ赤なんだろう。
身じろぐ私に錫也は「だめ」といたずらに言って更に唇を降ろしていく。



「お前はこのまま俺に抱かれていて?」



コバルトブルーの瞳は今見上げている夜空のように綺麗で。
私は思わず引き込まれてしまう。
そんな私の様子に錫也は微笑み、二人の腰掛けていたベッドの端に私をゆっくりと押し倒す。
両端には錫也の手。
まるで逃がすまいとするように私を囲んでいる。



ドキドキする。
心臓の音が耳まで届く。



恥ずかしくなり、錫也の瞳から視線を逸らす。
ふと窓の外を見やると、先ほどまでは見えなかった光の筋がいくつも流れては消えていった。
流星群がいつの間にかピークを迎えていたようだ。



「錫也、流れ星…っ」


指だけ窓の外を指し、私は錫也に訴える。
せっかく今日は流星群が見える夜なのだから、愛の行為はさておき、好きな人と流れ星を見たいではないか。
私の言いたいことが伝わったのか、錫也は一瞬だけ止まり、夜空を見る。
だがすぐに私に視線を移し、艶やかに微笑む。


「見ないの?」



少しだけ寂しそうに呟く私の頬を撫でた後、錫也は優しく唇にキスを落とした。




「すず…?」

「お前は流れ星を見てていいよ」

「え、それじゃ錫也は…?」

「俺はお前の瞳に映る流れ星を見るから」



だから大丈夫だよ――。
そう囁くと錫也は私にさっきとは違う、深い大人の口づけをしてきた。







―― ずるい。

錫也はずるいよ。
そんなことをしたら私はきっと流星群よりも錫也に夢中になってしまうじゃないか。

私の瞳には錫也しか映らなくて。
錫也の瞳には私しか、映らなくなる。






「せっかくの流星群の夜なのに…」

「流星群の夜だから、お前を感じていたいんだ」




俺の想いは流星に乗り、果てしない宇宙の彼方まで届くだろう。
それは一筋の光となる。
お前を照らす、俺の希望の光…









流れ星に3回願いを唱えることができないなら。
俺の抱く想いごと流れ星に乗せてしまえばいい。





「なぁ 俺の願いはひとつだけ…」











いつまでもお前と一緒にいたい――…。











錫也の瞼の奥の宇宙を見つめ、微笑む。
そして手を握り、互いの存在を確かめる。

私はゆっくりと瞳を閉じて、温かい体温に身を任せた――…



































‥fin‥