星に願いをかけようか


















一年に一度しか会えないなんて寂しすぎる。
私は好きな人とはずっとずーっと一緒にいたい。
一番近くであなたの笑顔を見つめていたい。





「今年は雨かぁ…」


私は天気予報を見て呟く。
外はじめじめしていて、窓を開けていても部屋の中に冷たい空気は入ってこない。
夜なのに昼間と変わらないくらい暑い。
人工的に作られた風に当たりながら、私は彼の名前を呼んだ。


「錫也ぁー」


風呂上がりの彼-錫也-はタオルを首に巻き、頭を拭きながら現れた。
そして「どうした?」と笑顔で尋ねる。


「今年の七夕は雨だってー しかも大雨!」

「そっか… じゃあ織姫と彦星は会えないのか」

「そうなの。最近の天気予報は当たるから今から“すずちゃん特製てるてる坊主”にお願いしてもだめなのかな〜って思ったら悲しくなっちゃった」


そう言って私は吊るしてあるてるてる坊主を眺めた。
錫也と昨日一緒に作ったてるてる坊主。
私の作ったのより錫也の作ったやつの方が可愛い。
錫也曰く、『きっとお前をモデルにして作ってるから可愛いんだろうな』だそうだ。
そんな可愛らしいてるてる坊主と形の歪なてるてる坊主が仲良く並んでいても、7日は大雨らしい。
一年に一度のイベントなのに、なんだか残念だ。




「七夕の伝説って、なんだか切ないよな」




錫也が私の隣に座り、ぽつりと呟いた。
「なんで?」と聞き返そうとする前に、錫也はどんよりと曇った夜空を見て言った。


「仕事を怠けた罰とはいえ、一年に一度しか会えないなんて悲しすぎる」

「そうだね。私もそう思うな」

「もしも俺が彦星で、お前が織姫だったら… そんなの耐えられない」

「錫也?」

「天帝の言うことは聞かない。俺はどんな手段を使ったとしてもお前に逢いに行く。そして、この腕に抱き締めて離さない」


錫也は私の肩を抱き、おでこにそっと唇を落とした。
風呂上がりの錫也は上半身裸だ。
逞しくてセクシーな胸に頭を預けるとトクントクン、心臓の音が聞こえた。
何よりも落ち着くそのリズムはいつもより心なしか早い気がした。


「私も、いやだな…」


錫也の胸の中で呟く。


「一年に一度しか錫也に会えないなんていや。私も頑張って錫也に逢いに行く!」

「いーや。お前をそんな危険な目には遭わせられません。俺が逢いに行くからお前は待ってて?」

「錫也はいつもそう… 私だって錫也に逢いたい気持ちは負けないよ?錫也のためだったら天帝にもっと会えるようにお願いするもん」

「天帝が頑固だったら?」

「泣き落としてみる!」











「「ぷっ あはははは!!」」












「俺たちなに“もしも”の話で盛り上がってるんだよ」

「ほんとだね」




二人して笑う。
そう。私たちは織姫と彦星のようにはならない。

逢えないなら逢うまでだ。

どんな困難も、錫也となら乗り越えてゆける。





「今日はお前、たくさん可愛いこと言ったから…寝かさないよ?」

「ふふっ 錫也ったら」

「七夕の前に愛を確かめ合うのも悪くはないと思うけど?」

「織姫と彦星に申し訳ないね」

「見せつけてやればいいさ」





錫也が笑い、立ち上がって私を抱っこする。
私は錫也の首に腕を回してちゅっと彼の額にキスをした。
そしたら錫也は「挑戦状だな」と言って優しく、でも艶やかに笑った。




寝室に行き、ベッドに下ろされたと思ったら身体中にキスの雨が降ってきて。
私は全身で錫也の愛を受け止める。





いつの間にか、雲っていた夜空には合間から幾つもの星が輝いていた――。






















‥fin‥