眠れぬ夜は君のせい














眠れない夜がある。



俺の隣には愛しい人。
すやすやと気持ちよさそうに眠っている。

さっきまで「錫也…眠れない…」って言ってたのが嘘のようだ。

眠れるようにおまじない、と俺はこいつのおでこにキスをした。
おでこ、瞼、鼻、頬、そして唇。
こいつの目はそれだけでとろーんとなる。


「錫也…」


弱々しい声で俺の名を呼ぶ名前。
本当に、堪らなく愛しい。


「錫也が隣にいると、安心する」


名前は小さく呟き、俺の胸に刷りよってきた。
まるで小さな仔猫のようだ。
可愛くて、愛しくて、目眩がする。


「俺もだよ…」


俺も、お前といると安心する。
唇を名前の耳元に近づけてそう囁く。
それを聞いて嬉しそうに微笑むこいつを見て、また胸が高鳴る。

本当に、こいつは何度俺の心臓を壊せば気が済むのだろう。
こいつによって壊され、こいつによって作られる俺。
俺はきっと、名前なしでは生きていけないのかもしれない。



「錫也の匂い大好き…」

「え…?」

「甘くて優しくて… 落ち着く匂い。いつまでも感じていたいな…」


俺の手をきゅっと握り、胸の中で呼吸をする名前。
二人で一人のような感覚に陥る。

俺の半身があるとしたら、それはきっとこいつなんだと思う。
そう思えてしまうほど俺は名前に依存している。



「俺はお前のものだよ」



この手も、足も、声も、匂いも。
俺を形作るすべてはお前にあげる。



「私も、錫也のものだよ」


ずっと、ずーっと。
一緒にいようね。



そう呟くと、重い瞼を閉じてすやすやと眠りに就いた名前。


俺は愛しいこいつの寝顔を覗き込み、微笑む。
そして唇におやすみのキスを落とし、頭を撫でる。

トントンと優しいリズムであやし、いつまでもこの時間が続くことを祈る。




ほら。今夜もきっと、こいつを想って眠れない。














‥fin‥