君にキス













キス、されました。










「錫也? ねぇ錫也ってば!」






錫也の様子がおかしい。


私は返事をせずにぼーっとしている恋人の顔に、手をひらひらとさせた。
それでも、反応はない。



今日はたまたま近所の子どもたちと一緒に公園で遊んだ。
私は子どもが好きだから溶け込むように滑り台に上ったり、砂場で遊んだり、ブランコを押したりした。

あれ?ただそれだけなのに。
錫也の様子がおかしいのはどうしてだろう?



(また何か私やっちゃったかな…)



錫也の顔を覗き込む。



錫也は私を見て少しだけ目を逸らす。
そして再び私を見つめると、そっと私の唇に指をあて、切なそうにポツリ、想いを呟いた。





「名前さ…」

「ん?」

「無防備すぎ。」

「……えっ!?」



そう一言私に言うと、錫也は肩をガックリと落とすように深いため息をついた。



「今日、お前キスされたよな?」

「え!だ、誰に!? 私キスなんてしてないよ!」

「いーや。俺はしっかり見たぞ?この唇に、俺以外の唇が合わさっているのを」

「きっと何かの間違いだよ錫也!私、キスなんかしてない!」

「してた」

「してない!」






錫也に抗議する。
すると錫也は今にも泣きそうな顔をして私をぎゅっと抱き締めた。





「錫也…?」


「ごめん… 俺ちょっとおかしいのかもしれない… ――― 子ども相手に。」







――― えっ?



こ、子ども!?






(そういえば…)






今日子どもと遊んでいる最中に男の子が「お姉さんだいすき!」って軽く唇にキス、されたような…。






「す、錫也… もしかして見てたの?」

「ああ」

「でも相手は子どもだし…それにキスされたっていってもほんの一瞬だよ?」

「わかってる。…子ども相手になに嫉妬してるんだろうな、俺…」





でも、お前の唇に触れていいのは俺だけなのに。
たとえ一瞬でも他の奴が触れたって思うと、どうしようもない気持ちに押し潰される。







そんなことを言う恋人が、堪らなく愛しく思える。
ああ、私、本当に錫也が好きなんだなって実感する。




「錫也、」





だからこんなときは私からキスする。
普段は恥ずかしくて自分からしないけど、今日は特別。

大好きなあなたに、甘い口付けを贈る。




「…っ!!」




あ、錫也驚いた。


そしてそのまま後頭部をおさえられ、深いキスに変わる。
何も考えられない。
呼吸さえも奪われるような、激しいキス。


でもそれがちょっと嬉しかったり。







「今からこんなんじゃ、錫也との子どもが生まれたら私どうなっちゃうんだろうね?」






冗談交じりにそう言うと、錫也は愛しい眼差しを私に向けて苦笑した。












‥fin‥