Precious Time




もしも運命の人がいるのならーー。


女性アーティストの曲を口ずさむ名前。俺の肩に寄りかかりながら雑誌を捲るその姿はとてもご機嫌そうだ。


何か良いことあった?


尋ねてみても返事はなく、にこにこ笑って鼻歌を続ける。その愛しい歌声をもっと聴きたくてさっきまで観ていたテレビの音量をほんの気持ち下げる。すると少しだけ大きく部屋に名前の声が響いた。それを良いことに俺は一つ、また一つ、テレビの音量を下げる。
名前はまだ気づいていない。

徐々に消えていくノイズ。

ふと名前が俺の手に触れ異変に気付く。



あれ?テレビの音聴こえないよ?

ん、消した。

なんで?

なんででしょう?



瞳が笑ってる。きっと名前は気づいてる。俺の思惑に。
そして何もなかったかのようにまた続きを歌い始めた。そう、俺が聴きたいのはその声。お前の唇から放たれるその音色。

錫也も歌ってよ。

名前が誘う。
俺の肩に身体を預ける彼女を腕に抱く。そして一緒に口ずさむ。
伝わる体温。優しい歌声。ページを捲る音。そのどれもが穏やかな休日の象徴のようで俺はそっと幸せを噛み締めた。







..fin..