欠片







きっと私は欠片を見つけた。






濃紺の静寂が包み込む。
聞こえるのは互いの息遣い。
生まれたままの姿で、こんなに近くで触れ合っているだなんて、ふと考えると不思議で堪らない。
愛を伝えるには様々な方法があるけれど、私たちはまだ未熟だからこの方法しか知らない。
でも愛する人と躰を重ねるという行為は決して悪いことをしているわけではないと思う。
錫也が男で、私が女である以上、結局は辿り着いてしまうんだ。
くすっと私が笑うと、私のナカにいた錫也の動きがピタリと止まり、訝しそうに私の瞳を覗き込む。


「なに」


錫也の額にはうっすらと汗が滲んでる。
ああそっか、また任せきりにしてしまったと、今の状況に気づき私は錫也の視線に自分のそれを絡める。


「考え事?」

「うん」

「へー、この状況で考え事できるなんて、名前はまだ余裕ってことだな」

「ち、違うよ!でもごめんね」

「今は、俺のことだけ考えて…」



錫也のことを考えてたんだけどな…、と思わず口にしてしまいそうになった言葉を飲み込み、私は瞳を閉じる。
錫也も再び律動を再開する。
錫也が動く度にグチュグチュ混ざり合うような卑猥な水音が聴覚を犯す。
初めて錫也と行為をした時はそれはまぁ恥ずかしくて涙目になったものだけど。
何回か回数を重ね、いい意味で私も慣れてきたらしい。
今では錫也がイきそうになる瞬間に自分のオーガズムを合わせることもできるようになった。
だから、今日の錫也はまだまだこんなもんじゃ足りないってことがわかる。



「名前、」

「なぁに」

「ちゃんと、感じてる?」

「ん、気持ちいいよ錫也」

「……なんか今日の名前はいつもより余裕だな」

「ふふっ 不満?」

「面白くない」



そう言っていた錫也だけど、何かいいことを思いついたようにニヤッと笑うと次の瞬間視界がくるっと反転する。
四つん這いにさせられ、錫也が後ろから突くような形になった。



「今日はバックで啼かせようかな」

「錫也、バック好き?」

「んー、どっちかっていうと俺は名前の顔が見える正常位の方が好きだけど…、今日はだめ」

「私もバックより正常位の方が好きなんだけどな?もっと言うと対面座位が好きだよ?」

「名前の動きぎこちないけどな」

「もー、そんなこと言うなら今度から一切動かないよ?」

「はいはい。とりあえず今は黙って…」



そう言うと錫也は腰を激しく打ち付ける。
先程とは違う挿入感に私は自然と喘ぎ声が大きくなる。
でも残念なのはこの体位では錫也の顔が見れないこと。
錫也のイク時の表情が私は何よりも好きなのだ。


眉根を切なそうに寄せ、うわ言のように私の名前を呼ぶ。
「名前…名前…」といつもより掠れた声がちょっとセクシーで、ドキドキする。
今日はその表情が見れないのか。自業自得だけどやっぱり残念だ。



「ぁ…ッ、ぁ、ぁ!」



次第に打ち付けるリズムが速くなる。
ズクンとナカが切なく疼く。



「錫也ぁ…っ、イク、イク…!」


もう少しでイキそうなところでピタリと錫也は動きを止めた。
え?と不満げに錫也を見ると、艶やかに微笑んでいた。



「だぁめ。お前はやっぱりこっち」



チュッと唇にキスを落とされ、正常位に戻る。



「顔が見えた方がいい」

「ふふっ 私も」



額をコツンとくっつけ合い、笑う。
指を絡めるようにしっかりと握られた手。
しっとりと汗で湿ってる。
唇を何度も重ねながら、でも律動はやめない。
躰が悦んでる。気持ちいい…


パン!パン!とぶつかり合う音がする。
聴覚も、視覚も犯される。
だって目の前には愛しい錫也がいるのだから。



「…っ、名前…!」

「ぁ!…あ!ゃぁッ!アん、ん、ん!」

「名前…名前…イキそ…!」

「ん、きて…っ!」

「……クッ!」



一際強く振られた後に訪れる静寂。
この瞬間は時が止まる。
私の胸に倒れこむ錫也。
その重さすらとても愛おしい。




「錫也…?」



私は彼の頭を優しく撫でる。
さらさらの髪に指を通す。
その心地よさに目を細める錫也はまるで小さな子どものよう。




「名前は俺の欠片だな」



不意に錫也が呟く。



「欠片?」

「そ。俺の足りない部分。それが名前」

「じゃあ、錫也も私の欠片だね」





私の世界を構築するのはいつだって錫也だよ。
錫也がいなくちゃ始まらない。
お互いが同じ気持ちでいるってなんて素敵なことなんだろう。


情事後のお喋りは至福のひと時。
くすくす笑い合って私たちはゆっくり流れるこの時間に身を委ねていた。




















‥fin‥