Get チュー!
チューする? Get チュー! 夏だ。遂に夏が始まった。 部屋の温度は28度設定。地球環境にも割と優しい。 夏休みに入り今は大学の課題を錫也の家でやっていたところだ。 なぜ錫也の家でやるのか。 それにはいくつか利点があるからだ。 まず一つ、冷たくて美味しい麦茶が飲める点。 麦茶なんてどこの家庭でも大概同じような味のものが出ると思い込んでいたが、東月家のそれは別格だ。東月家秘伝の何かが入っているに違いない。とにかく麦茶が美味しいのだ。 二つ、隣に錫也が居た方が課題が捗る点。 錫也という男は、頭の内部が他の人より精巧にできている(つまり頭が良いってことね)ので、わからない問題があれば丁寧且つ分かりやすく教えてくれるのだ。下手したら大学の先生よりも分かりやすいかもしれない…。恐ろしいほどによくできたお頭の持ち主であるのだ。 三つ、課題が終わった後は錫也お手製のクッキーが待っている点。錫也のクッキーは趣味というレベルを超している。プロフェッショナルのレベルなのだ。とにかく美味しい。多分私は錫也のクッキー目当てで今を頑張っている気がする。 ともあれ、書き出すと三つじゃ収まらないが、錫也の家で勉強をするともれなく良いことが沢山付いてくるのだ。 「錫也ー」 「どうした名前?」 「ここ、わかんない」 「どれどれ… ああ、この座標はね、さっき教えた公式に当てはめて…」 真剣な横顔。 教えてもらってるのに不謹慎だけど、錫也の横顔は美しい。美男子。イケメンとはまさに彼のことを言うのだろう。 一生懸命錫也は教えてくれてるのに、言葉が耳に流れていく。 持っているシャーペンをクルクル回したり、カチカチ芯を出してみたり。 でも目に入るのはテキストの数式ではなく錫也の横顔ばかり。 なんでこんなにかっこいいのさ。 ちょっと悔しい。 その顔を驚かせてみたい。 邪な考えがあれこれ浮かんで、私の頭にはもう勉強の二文字などなかった。 「この問題はさっき教えたのを応用したやつだから… って、名前聞いてる?」 「ねぇ錫也」 「なぁに?」 「チューする?」 「えっ 」 ガタンッと机が揺れる音がした。 と同時にグラスに入ってる麦茶に波が生まれる。溢れはしなかっただけマシか。(溢れてたら今頃テキスト水浸しだ) 「名前、熱でもあるのか…?」 「錫也、チューしよ」 「え、いや、だから…」 「いいから、チュー…」 隣に座る錫也の肩に腕を回し、私は唇を重ね合わせる。 普段は錫也の方からキスするのに、今日は珍しく私からだから戸惑っているのかな?錫也の頬がほんのり赤い。 「名前、課題…」 「ねぇ錫也、もっとー」 「だめだ」 「なんで?」 「……らんなくなる、」 「え?なに?聞こえないー」 唇を尖らせて拗ねてみせる。 すると錫也は突然立ち上がり、パタンとテキストを閉じた。 その動作を見たのもつかの間。今度は私の手首を軽く掴み、階段を上がる。 階段を上がった先に見えるのは、言わずもがな、錫也のお部屋で。 ドアを開けるなりベッドに一直線。 「ちょっ、ちょっ!錫也?」 「止めらんなくなるだろ?」 そう告げた後、待っていたのは深い口づけ。 唇の隙間を割って入ってきた舌が歯列をなぞり、私の舌までもを奪う。 舌を甘噛みしたり、絡めあったり、呼吸をする暇さえ与えない。 柔らかい感触、でも錫也のキスは時々激しい。普段は優しいけど、時々野獣化する錫也。でも愛おしい。 「錫也、勉強は?」 「今その話するかな…」 「私、錫也より解くスピード遅いし、今やらないと後が大変だよ〜?」 「名前が煽ったんだよな?俺、名前からキスなんてされたから堪らなくなっちゃうよ」 「この後の課題は、錫也が全責任を負ってくれる?」 自分から仕掛けておいて笑っちゃうけど、今の錫也には勝てそうだから私は敢えて挑戦的な言葉を投げる。 「…後でみっちり教えるからな?覚悟しとけよ」 「今は?」 「今は俺の腕の中で愛されるのがお前の役目」 「ふふっ じゃあチューしよ?」 目を細め、私の頭を撫でると唇が近づいてくる。 その甘い温もりを感じながら、私は錫也の匂いのするベッドの中に深く沈むのだった。 真夏の暑い日。 外は炎天下。 空調の効いた快適な錫也の部屋の中で私は錫也からもらう別の熱を、カラダ全体で受け止める。 暑くて熱い夏はまだ始まったばかり。 ‥fin‥
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