夢の後に。









夢を見た。
朝起きたら隣に愛しい人がいない、そんな夢。
だから私は目覚めて真っ先に隣の温もりを確かめた。ちゃんとあるかどうか、居なくなってないかどうか。
隣の彼はまだ夢の中だったようだけど、私の異変に気付いたのか毛布の中の手がピクリと動き、私に伸ばされる。
私はその手に指を絡め、きゅっと力を込めた。
すると彼はその蒼の瞳をゆっくり開き、私を静かに見つめた。


「どうした?」

「……」

「怖い夢でも見たか…?」


頷く前に彼は私の頭をよしよしと撫でる。
その優しさが嬉しくて、確かにここにあるという本物で、私は無性に泣きたくなった。いや、気付いていたら泣いていた。
声を上げて泣いた。


昔、些細なことで喧嘩し、友達に裏切られた時と、それはまるで同じ感覚で。
怖くて、ツラくて、悲しくて、切なくて。
どうしてかわからないけど、その時と同じ気持ちが押し寄せてきて、私は彼の前で泣いた。


「大丈夫だよ名前…。もう大丈夫だから…」

「…ック、錫也…ッ」

「俺は名前の前から居なくなったりしないから、ずっと傍にいるから」


その声があまりに優しかったから、私は涙が止まらなかった。
熱を持った雫が頬に流れる。
それを彼は親指で拭う。
大きな手のひらが、私を包む。
ああ、私は今この人の隣に居るんだって漸く実感できた私はやがて落ち着きを取り戻した。
彼はふわりと目を細めて笑う。
この笑顔に何度私は救われたのだろう。
きっとこれからも、彼には敵わないのかもしれない。彼の深い愛には。


「なぁ名前、俺はどんなことがあってもお前の傍にいるよ。名前の前から消えたりしないから、大丈夫だよ」

「ん…」

「朝起きても、俺は居るから。な?傍にいるから」




錫也のくれる言葉は魔法だ。
心の陰を取り除いてくれる。
明るく優しい光を灯してくれる。
それは温かくて、陽だまりのような、心地よい光。


「ねぇ錫也、私が眠りに就くまで手を握っていてくれる…?」


勿論、という返事の代わりに錫也は唇にそっと口付けた。
不思議だね、不安が、嘘のように消えていく。



いつからこんなに寂しがり屋になったんだろう…
私は錫也が居ないとダメな人間になってしまった。
そう伝えると彼は嬉しそうに目を細める。
まるで、「それでいいんだよ」と言うように。



さっきまで見ていた悪夢はいつの間にか消え去り、私は彼の温もりに包まれ、涙で腫れた重たい瞼をゆっくりと閉じた。


次に見る夢が、どうか幸せな夢でありますようにと、想いを込めながら。









‥fin‥