ただ君を愛してる










どうしてだろう。
こんなにも錫也のことが好きなのに。
時々どうしようもないくらい不安になる。

どんなに好きだと言われても。
どんなに愛してると言われても。
何度唇を重ねても。
二人のカラダを重ねても。
私の不安が消えることはない。

いつか、錫也が私から離れていってしまうような錯覚を思い浮かべては、どうしようもないくらい不安になる。
そして眠れない夜を抱く。
どうやら今日はそんなセンチメンタルな夜らしい。
すぐ近くに錫也がいるのに、遠くに感じられて。
私は背後からその背中を抱き締めた。




「どうした?」

「………」

「寂しくなっちゃったか?」

「………」





静かに私は首を振る。
錫也は向き直り、私の顔を覗き込む。
そして優しく微笑み、頭を撫でた。





「大丈夫だよ。俺はちゃんとここにいる」

「うん…」

「名前が不安に思うことなんて何一つないんだ」

「うん…」

「名前にはずっと笑っていてほしい」




そう言うと錫也は私の顔中にキスの雨を降らせる。
温かい錫也の唇を感じて、不意に胸が苦しくなってじわりと視界が滲んだ。
一筋の涙が流れる。
錫也はそれを堰き止めるように唇を宛てる。




悲しいわけじゃない。
寂しいわけでもない。
苦しくて、切なくて、今は無性に涙が出る。



ねぇ錫也。
私、あなたを好きになってからおかしいの。
前はこんな気持ちにはならなかったのに、今は本当に苦しいの。
この気持ち、どうしたらいい?






「錫也…っ」

「うん」

「錫也…っ、錫也、錫也…っ」

「名前、大丈夫。お前の気持ちは全部受け止めるから」

「錫也が好きなの。すごくすごく好きなの」

「ん、俺も好きだよ」

「でも時々どうしようもないくらい不安になるの。錫也が、私から離れていってしまうような気がして、夜が怖い」

「今も、怖い?」

「うん…」

「俺は名前から離れていかないよ。名前が不安に思うことは何もないんだ」

「わかってる…でも怖い…」


私は自分の欲を錫也に伝える。













「錫也を、もっと近くに感じたい…」







すると錫也は目を細めて、優しく微笑んだ。







「名前が望むなら…」





そう言うと錫也は私をベッドに寝かせ、私の服を一枚一枚脱がす。
ボタンをプチンプチンと外す。
その音がやけにいやらしい。
自身を締め付けていたネクタイをシュルっと解く。
あっという間に私たちは生まれたままの姿になった。
錫也のしなやかで逞しい腕が私のカラダを抱き締める。
ただそれだけなのに、私は泣きたくなる。
この言葉にならない想いを伝える術を私は知らない。
だから一生懸命錫也の名前を呼ぶ。
錫也はそんな私を見て嬉しそうに笑うから。
私も嬉しくなる。
もっと錫也を感じたくて、もっと錫也に私を感じてほしくなる。






「ぁっ…、すず、や…!」

「名前…っ」






お互いの名前が響き合う。
グチュグチュ二人が交ざり合う音と共に、荒い息遣いも室内に溶ける。
もう錫也のことしか考えられない。
頭の中、錫也でいっぱい…






「錫也…錫也…ッ!好きっ、好き…ッ」

「名前、俺も好きだよ…っ」

「あっ、ん、ん、ん、ぁぁぁッ…!ハァ…ん、んァッ!すず…や…ッ」

「お前のこと、本当に大好き…」

「ゃっ、あっ、イッちゃう…!」

「名前…イッて…?」

「一人は…や…ッ!すずや、一緒に…ッ!」

「ああ。俺も、…ッ、イク…ッ!」

「あ………ああああァァ……ッッ!!」

「名前、ッ、クッ…!!」





錫也が私のナカで弾ける。
二人で達した瞬間はまるで時間が止まったような感覚に陥る。
この瞬間がずっと続けばきっと私は不安になることはないのだろう。
叶わぬ欲が脳裏を掠めた。




錫也が私の上に重なるように果てる。
私たちは互いの顔を見て笑う。






「名前、愛してる…」



錫也の言葉を聞き、私はいつまでもこの温もりに包まれていたいと思うのだった。











‥fin‥