君の好きなとこ












想いが募るほどに直接顔見ては言えない。
君の好きなとこなんて、数え切れないほどあるのに…








「名前はさ。東月君のどんなところが好きなの?」






ふと聞かれた質問に、私は答えることができなかった。
すぐ隣に錫也がいたから緊張したのだろうか?


…いや、違う。
上手く、言葉にできないんだ。


錫也の好きなところ。
たくさんある。
でもそれを言葉に当て嵌めようとするとどれも陳腐に思えてきて、上手く表現できないんだ。
だから黙ってしまう。

そんな私を見て錫也は笑った。



「俺の好きなところなんて宏美はたくさんあるもんな」



明るく振舞っていたけれど、横顔は少しだけ寂しそうで。
傷ついたような顔をしていた。

そんな顔させたかった訳じゃないのに。
どうしてだろう。なんで、伝えられないんだろう。






錫也の好きなとこ。

照れた笑顔、優しい手のひら。低くて甘い声。
髪の色、唇の形、穏やかな性格。

世話好きなとこ、やきもち妬きなとこ、心配性なとこ。
器用そうに見えるけど実はすっごく不器用で。
本当は誰よりも繊細なのにそれを表に出さない。
自分のことはいつも後回しで周りのことを一番に考えてくれるとこ。

私のことを、好きだって言ってくれる錫也。
どれも全部が愛しくて、一生懸命言葉にしてみたけど、まだまだあるの。
悔しいね。自分の想ってる気持ちを言葉にするだけなのに、それすらも私はできないのかな。




「名前…?」



錫也が不意に私の名前を呼ぶ。
振り返ると心配そうに私の顔を覗き込んで首を傾げる錫也。



「考え事か?」

「………」

「俺には言えないこと…?」

「ううん…違う…」

「ん。俺は待ってるから。名前が自分から言ってくれるまでちゃんと待ってるよ」



ぽんと、優しく頭を撫でる錫也。
こういうとこも大好きなのに、錫也を前にすると途端に言葉にできなくなる。

じわり。瞳が熱くなる。
すると今度は視界が歪んで目の前の錫也も滲んで見えた。
錫也はそんな私を見て驚き、瞳を見開かせる。



「ど、どうした?俺、何かしちゃったか?」

「…っ、錫也が優しいからだよ…」

「え?」

「錫也の優しいところ、大好きなの…」

「うん」

「優しいだけじゃない、やきもち妬きなところも、拗ねるところも、私の名前を呼んでくれるその声も…。みんなみんな好きなの…」

「うん」

「でも、錫也を前にすると上手く言葉にできない…だから今日も錫也を傷つけた…」

「そうだったんだ…」

「ごめんなさい…」




錫也にありのままの気持ちを伝えてみた。
なんて言われるかな。
呆れられるかな。
私は俯いて待ってると、錫也はふわっと私を抱きしめて言った。




「俺、嬉しいよ」

「え?」

「それだけお前が俺を好きだってことだろ?こんなに嬉しいことはない」

「錫也…」




ありがとな、そう言って私の唇に触れるだけのキスをした。




錫也は知らないでしょう?
私がいつもドキドキしてること。




錫也の好きなとこなら世界中の誰よりも知ってる。
そんな私が嬉しくて。



ほら今、錫也が笑うから…
なぜだろう、言葉にできなくて…。



















‥fin‥