あなたがいるから、私は…
たとえば暗闇で目の前が見えなくなった時も、 錫也がいてくれるから、私は怖がることなく前へ進めるの。 錫也の手は温かくて、笑顔は優しくて、私を安心させる。 だから、錫也がいてくれれば私は怖いものなんて何もないの。 そう、これからも――…。
暗闇の中、私は錫也を探す。 宙を彷徨った私の手のひら。 それを錫也の優しい温度が掴まえる。 やっと見つけた。 愛しい人の、温もりを――。
「錫也…っ」
「名前、大丈夫だよ」
「うん…、」
「俺は一緒だから。ちゃんと、傍にいるから――」
錫也の声が掠れてる。 切なそうに細められた瞳。 私も締め付けられるように胸が狭くなる。 こんな時、どうしようもなく泣きたくなるんだ。
優しいから。 錫也が優しく私を抱いてくれるから。 一人の女の子だった私は、あなただけの女になる。 その瞬間が、言葉にできないくらい、堪らなく嬉しい。
ねぇ 知ってた? 私、錫也に抱かれる度に、私は『私』でよかったって思うんだよ。
今までは自分ではない誰かに憧れてた。 もっと可愛くて、綺麗で、料理もできて… 錫也に似合った女の子になりたいって思ってたよ。 そして私はまだ見ぬ誰かに嫉妬してた。 錫也に似合った女の子を頭の中で描いてはかき消して。 でもそんな女の子に自分は到底なれっこなくて。 いつも、いつも、錫也といる度に不安だった。
でも錫也が私を抱きながら言ってくれる言葉で、私は漸く『私』を好きになることができた。 どんな私も優しく抱きしめてくれる、錫也の愛は本当に大きいから。 時々溺れそうになるけれど。 いつだって私を見つけてくれる。 だから安心してその愛に溺れることができる。
「…っ、名前?」
「錫也…好き…」
私のナカにいる錫也の動きが止まる。 そう言うと錫也はとても嬉しそうに微笑んで、「俺も」と言う。 やっぱり、私、錫也が好きだよ。
「錫也…すず…や…ッ」
「っ…、」
再び始まる律動。 激しく揺さぶられて、頭のてっぺんから足の先まで感じたことのないほどの快感が駆け巡る。 もう、目の前もチカチカするよ。 大好きな、錫也の顔も、見えない――…。
「名前…っ、名前…っ!」
私の名前を呼ぶ錫也の額から汗が迸る。 錫也も溺れてほしい。 私の中に、私と一緒に。 一人でイクのは嫌だから。
「ぁ…ッ、ャッ、すず…っ!」
「名前…好きだ…、愛してる……」
「私も、錫也を――…」
愛してる…
そう呟くと同時に、私のナカで錫也が弾けた。 途端に襲う疲労感。
ドサッと錫也が私の上に倒れ込む。 そしてぎゅうっと私の身体を労わるように抱きしめる。
「大丈夫か…?」
「うん」
いつだって錫也は私のことを想ってくれる。
「今日のお前、いつもより素直で…可愛い」
「錫也が…好きだから」
優しく目を細める仕草が好き。 その唇で愛の言葉を囁く錫也が好き。 私はきっと、錫也を形作るすべてが好きなんだよ。
落ち込んだ時、そっと手を差し伸べてくれる錫也。 その笑顔で私を包み込んでくれる錫也。 もう、その優しさを知ってしまったから、抜け出せることができない。 私は錫也に依存してしまっているから。
錫也も同じかな…? 同じくらい私に依存していてほしいよ。
わがままと言われようがなんでも構わない。 私は、錫也が、好きだから――…。
‥fin‥
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