つかの間の安らぎ





















「錫也〜 課題が終わらないよ〜」


俺の向かい側に座る名前が今にも泣きそうな声でそう訴えてくる。
そんな姿も可愛く思えるなんて、本当に俺は末期だと思う。


「名前、頑張って。これ終わったらあとでお前に美味しいご飯作ってやるから」

「むー。それはすごく魅力的だけど、今はどうしてもやる気が出ないー」


机にだれる名前。
こいつはやるときはやるのに一度集中力を切らすとなかなかやる気スイッチが入らない。
名前の課題を見てみると俺の半分ほどしか終わってなかった。


「こーら 名前。まだ全然終わってないじゃないか」

「だって難しいし…わかんないし…。やるだけ時間の無駄だよ〜」

「そんなこと言わないで。頑張ろ、な?」


だれている名前に苦笑しつつ、俺は名前のやる気スイッチを探す。
それでも名前からはペンを動かす気力も気配も感じられない。

どうしようもなくなった俺は最終手段を使う。


「名前。10秒以内に起きて課題やらないと、俺今からお前にキスするから」

「……へ!?」

「10…9…8…」


ガバッ


「やりますっ!!」


名前はすぐに起きた。
そんなに俺とキスしたくないのかと思い、ちょっと複雑な気分になる。


「錫也…?」


きょとんとしている名前。
俺の胸中なんてこいつは知らないんだろうな。
ハァ…と俺はため息をついた。


「錫也?どうしたの、さっきからため息ついて」

「いや別に。何でもないよ」

「あ、誤魔化した。錫也の悪いクセだよー」


ぷくっと膨れる名前。
そんな顔も可愛い。
本当に、どうしてしまおうか。


「今、名前とキスしたい」

「―――えっ!?」

「だめか?」

「ちょっ…錫也、突然何言ってるの?? ここ図書館…」

「知ってる。でも今したい」

「今っ!?」


慌てるこいつの顔が面白い。
あ、今度はぎゅーってしたくなった。



「錫也っ!?」


でもこいつを困らせたくない。
俺の身勝手な行動で名前を傷つけてしまいたくないから。
俺は本音を心の奥底にしまう。
そしてなに食わぬ顔でいつもの言葉を言う。


「冗談だよ」



こいつは知らない。
俺がいつもどんな想いでお前のことを見ているのか。



好きな人とはいつだって繋がっていたい。
触れ合っていたい。

場所なんか関係ない。
人目とか気にしない。


俺のものだって見せつけて、片時だって離さない。







名前のことばかり考えて、課題に集中できなくなったのは俺の方だった。















‥fin‥




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