錫也に愛されるお話。
「名前、こっちおいで」
錫也がベッドの上で手招きする。 誘われる、この瞬間は…いつになってもやっぱりドキドキする。
「錫也…」
錫也の名前を呼び、そっと手を取ると突如グッと引き寄せられ、錫也の胸の中に飛び込む形になった。 錫也は私の耳元で「掴まえた」なんて囁く。 甘く響き渡る低音にゾクゾクする。 私は震える指で錫也の腕を掴む。
別に今夜が初めてなわけじゃない。 でも、大好きな人と愛する時間は、どうしても慣れそうにない。
「名前、可愛い。顔真っ赤」
「だって…」
「恥ずかしい?」
私の瞳を覗き込んで訊いてくる錫也は少し意地悪だ。 わかってて訊いてる。 錫也の思惑通りの反応をするのはちょっとだけ悔しかったから、私は何でもない素振りを必死で見せる。
「そういう錫也も顔赤いよ?私といるとドキドキするんだ?」
小悪魔的に、上から目線で言ってみたけれど。 錫也にはどうやら逆効果だったらしい。 錫也は大きく目を見開いたかと思うと、次の瞬間、目を細めて私の頭を撫でる。
「ああ、ドキドキするよ。俺、お前といる時はいつもドキドキする」
…まったく、嫌味のひとつも通用しない、何枚も上手な旦那に私は胸が破裂しそうになる。 人は生まれた時から死ぬ時まで鼓動の回数が決まっているという話を聞いたことがあるけれど、もしそうだとしたら、錫也と一緒にいる時は鼓動が早くなるのだから寿命を縮めていることになる。 特に、今、この瞬間は尚更。
「名前、好きだよ」
錫也が私の額に口付ける。 額、瞼、鼻先、頬、耳、首筋… 錫也の唇が触れた箇所が熱を持ったように熱くなる。 まるで魔法にかけられたみたい。 やけどしちゃいそう。
「私も、錫也が…」
好き。
そう言って錫也の唇にキスをした。 そっと、触れるだけのキス。
だけど唇を離そうとした瞬間。 後頭部に錫也の手が回ってきて、がっちりと固定されてしまう。 離そうとした唇は尚も触れ合ったまま。 酸素を求めて僅かに開けた唇の隙間から、錫也の舌が挿入ってくる。 歯列をなぞり、私の舌を探す。 舌を見つけると、後はもう絡ませるだけ。 ピチャ…と唾液の混ざる音がする。 私のか錫也のかわからない唾液が唇の端から漏れる。 二人を繋ぐ銀の糸が、伸びては消え、また伸びては消え。 キスだけでこんなに意識が朦朧となってしまう自分が恥ずかしい。 苦しくなって、私は錫也の胸をドンドンと叩く。 そうすると錫也は名残惜しそうに唇を漸く離した。
「ん…」
「…っ、錫也、キス長いよ」
「だって…お前とのキス、気持ちいいから」
「……、そういうことは言わないで…」
「俺、すごくドキドキしてる。ほら」
錫也は私の手を自身の左胸に当てる。 ドクン、ドクンと脈打つそこはいつもより早い。 錫也も、ドキドキしてくれてるんだ… そう思ったらなんだか嬉しくて、私は錫也の胸に頬を擦り寄せた。
「錫也、可愛い」
「それはこっちの台詞。お前可愛すぎて、俺のここ、もうこんなだよ?」
錫也の手によって導かれたそこは、すごく熱くて大きくなっていた。
「早くお前の中に入りたい…」
「っ…、」
耳元で囁かれ、チュッとリップ音が聞こえた。 そんな近くで囁かないでよ。 身体中が歓喜で震える。 どうしよう、私もすごく感じてる… 下着は自分でもはっきりわかるほど濡れていた。 まだ触れられてもいないのに、キスだけでこんなに感じてしまう自分は淫乱なのだろうか。 そう思うとやっぱり恥ずかしくて。 錫也の瞳から逃れたくなる衝動を抑えられない。
「…っ!」
不意に錫也が私の熱くなったそこに触れた。 それにビクッと反応する身体。 そっと触れられているだけなのに、もっともっとと刺激を求めるように疼く中心部。
「…ゃっ…、ぁん…」
「名前、可愛い」
この期に及んでも私のことを可愛いと言う錫也。 私のどこが可愛いのだろう。 顔なんか真っ赤だし、声なんか自分のじゃないみたいに高く、やらしい。 そんな風に思ってたら、なんだかツンと鼻に刺激が走り、涙が溢れた。
「名前?どうして泣くんだ?」
「だって…私、可愛くない…っ」
「名前は可愛いよ。こんなになって俺を求めてくるお前が、すごく愛おしい…」
「錫也…」
「誰にも渡さない。お前のこんな姿を見られるのは俺だけだ」
優越感に浸るように一人呟く錫也。 でもその眼差しは優しくて、あったかくて。 不思議と安心感を覚えた。
「錫也………欲しいよ…っ」
小さく呟く。 普段自分からこういうことは言わないから、それを聞いて錫也は幸せそうに微笑んだ。
「いいよ。あげる…」
二人の影がひとつに重なる。 目の前に映るのは私を求める錫也。 ただの、男でしかない、その表情は余裕なんてどこにもない。
繰り返される律動。 迸る汗。
目からは愛しい錫也が映り、 耳からは乱れた錫也の息遣い、 鼻からは錫也の匂い、 錫也のキスを感じる舌、 そして全身で錫也を感じる。
五感すべてが錫也で埋め尽くされて、私はこれ以上にもない快楽を感じ、達してしまった。
錫也も私の中で果て、ドサッと私に覆い被さるように倒れ込んだ。
「錫也…?」
「ごめん…名前」
「えっ?」
すごく気持ちよかった
頬を朱色に染めて耳元で囁く錫也に下半身がまた熱くなるのを感じた。
濃紺の静寂。 時刻はまだ午前2時。 二人の熱い夜はまだ続きそうである。
‥fin‥
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