寒い夜だから















俺がバイトから帰ってきたら名前は毛布を何重にも巻き、ベッドに埋まるように寝ていた。



「名前?どうした?」

「……寒い。」



一言、毛布の中から聞こえた。
俺は慌てて名前の傍に駆け寄り、名前の額に手をあてる。



「熱は…まだなさそうだな」

「錫也の手、冷たいよー」

「あ、ごめん」

「うー 寒い…」



名前は再び毛布にくるまる。
まるでその姿は芋虫のようだ。
ガタガタ震える名前になんとかしてやりたくて俺は思考を巡らす。



「わたし、このまま凍え死んじゃうのかな…」



名前の言葉に俺はクスッと微笑む。



「大丈夫だよ。俺が傍にいるから。俺がお前をあっためてあげる」



そう言うと名前をぎゅうっと抱き締める。
だけど俺と名前の間には何重に巻かれた毛布の壁。
名前のぬくもりを感じるには毛布が少しだけ邪魔だ。



「名前?毛布が邪魔してお前を温められないんだけど…」

「だって毛布ないと死んじゃうー」

「俺が毛布の代わりになるよ?」

「錫也と毛布だったら…毛布の方があったかいと思う…。」

「………」



もしかして俺、毛布に負けた?


名前は「むー 寒いー」と譫言のように呟く。
なんとかしてやりたいけどこのままでは何もできない。



「名前?」

「んー」

「今からお前のために温かいコンソメスープ作ってやるからな」

「ほんとー?」

「ああ。だから少し待ってて」

「待ってるー」



寒いからか言葉の語尾が伸びている名前に苦笑しつつ。
俺はキッチンへと向かった。










(寒がる君に、とっておきのスープを。)











「温かくて美味しい…」

「それはよかった」

「錫也は?飲まないの?」

「俺はスープを飲んであったまった名前を食べるから大丈夫だよ」

「……なんかグリム童話みたいだね」

「ん?」

「いや、なんでもない」
























‥fin‥