夢現に見たしあわせ
























朝、目覚めると隣に錫也がいる。
いつもは錫也の方が私よりも早く起きて「おはよう」って言ってくれるけど、今日は違う。
錫也はまだ夢の中。
気持ちよさそうにスヤスヤと規則正しい寝息をたてながら眠っている。
錫也の寝顔を見られるなんて、今日はなんだか得した気分だ。



(錫也可愛い…)



寝ている間も片時も私を抱き締める腕の力を弱めない。
以前一度だけ「苦しいよ」って抗議したことあったけど、錫也は笑って「名前が俺の傍にいるって感じられるから…お前は俺の腕の中にいて?」と言われた。

…そんなこと言われたら、言い返せなくなっちゃう。
わかってて言ってるんだ、きっと。
だから錫也はずるいと思う。

悔しいから、私も錫也の胸に顔を埋めてギュっと背中に腕を回した。









今日はそんな錫也よりも早く起きてしまった。


どうしようかな。
たまには私も朝ごはん作ってみようかな。


錫也の腕を解いてベッドから離れようと試みる。
しかし錫也は離れてくれない。
それどころかますます腕の力は強くなって、私と錫也は更に密着した状態になった。
…錫也、もしかして起きてるの?



「錫也…?」



名前を呼んでみても返事はない。
やっぱりまだ寝てる、よね?


錫也の腕の中は温かくて安心する。
その温もりに私は再び眠気が襲ってくるのを感じた。
せっかく錫也よりも早く起きたのに悔しいな。
錫也がいけないんだよ?


私は寝ている錫也の唇にキスをした。
普段自分からキスなんてできないから、今日は特別。



「錫也、好きだよ…」


もう一度、触れるだけのキスをした。
そして私はゆっくりと重くなってくる瞼を閉じた。






















***


















夢を見た。名前が早起きをして朝ごはんを作ろうとする夢を。
でも俺の抱き締める腕が解けなくて、結局名前は朝ごはんが作れないんだ。
むくれた名前は悔しいから、と俺の唇にキスをする。

名前からしてくれるキスは夢の中でも甘くて。
俺は頬が緩んでしまった。


そして今、目が覚めた。

名前はまだ眠ってる。
気持ちよさそうに眠る名前。



(可愛いな…)



俺は抱きしめていた腕を緩め、自由になった手を名前の額に当てる。
髪を払い、おでこにそっとキスをした。
次は瞼、その次は鼻、そして頬…



「最後は可愛い唇に」



キスをすると名前は「ん…」と言って動き、ゆっくりと目を開けた。
まるで王子様のキスで目覚めるお姫様のようだ。



「おはよう、名前」

「…おはよう」



若干名前のご機嫌が斜めのように感じるのは気のせいか?
そう思っていたら名前は口を尖らせて、「またいつもと同じだ」と言った。
不思議に思って「なにが?」と尋ねると、名前は俺の背中に腕を回し、顔を胸の中に埋めた。



「名前?」

「せっかく今日錫也より早く起きたから朝ごはん作ろうかなって思ってたの。でも錫也が私を抱きしめて眠ってたから離れられなくて…そしたらまた眠くなってきて、気づいたら眠ってた」



錫也のせいだからね、と俺を怒る名前。
俺はというとそんな名前を見て微笑んでいる。

だってそうだろう?
まさかさっきまで見ていた夢が本当だったなんて思いもしなかったから。




「ごめんな?じゃあ今日は一緒に朝ごはん作ろう?」

「うん!」






















幸せすぎる。

俺の隣に名前がいて。

名前の隣に俺がいる。


朝が来るたびに俺は幸せを実感する。

名前がいる、ただそれだけで俺は涙が出るくらい幸せで。
この幸せをずっと守っていきたいと思うんだ。



俺の幸せなんてすぐそばにあったんだ。
探す必要なんてなかった。


お前が、俺の幸せそのものだから――。








だからこれからもずっと、一緒にいような。





俺の隣で微笑む名前を抱きしめて、そう囁いた。









































‥fin‥