ツライヨル。
誰にだってあると思う。
泣きたい夜。 寂しい夜。 苦しくて辛い夜。
苦しいのは私だけじゃない。 そう言い聞かせてみても、やっぱりこんなに苦しいのは私だけな気がして。 私は一人膝を丸めて泣いていた。
こんな夜は交錯する感情だけを捨てて、消えてしまいたい。 それができたら私は今どんなに楽だろうか。
「名前…」
彼の声がして私はビクッと体を震わす。 近づく足音、だんだん聞こえる息遣い。 私はゆっくりと顔を上げる。 彼は穏やかな顔で微笑んでいた。
「見つけた」
「錫也…」 「かくれんぼはおしまい。さぁ 早く帰ろう?」
何があったか聞いてこないのは錫也の優しさ。 私はその優しさにいつも甘えている。 そして痼のように残る罪悪感。
本当は何でも話したい。 想いを全部言の葉に乗せて伝えたい。
でもそれが出来ないのは私に勇気がないからだ。
こんな私を知ったら嫌われる。 私から離れていってしまう気がする。
だから私は誰にも見えない透明のヴェールで自分を隠す。 自分は一人きりだと、自分に言い聞かせて。
「名前」
「ごめんなさい…」
何も話せなくて、ごめんなさい。
こんな私で、ごめんなさい。
「名前は名前のままでいいんだよ」 「え?」
「元気な時ばかりだけじゃない。誰でも落ち込む時だってある。いろんな状態の時が人間にはあるから」 「………」 「でも辛かったんだな… 気づいてやれなくてごめんな…」
どうして錫也が謝るの?
私はこんな時、自分が醜くて堪らなくなる。 でも、そんな錫也の優しさに安心している自分がいて。 なんだか訳もわからず涙が出た。
「泣きたい時は泣いていいんだ。涙が止まるまで俺は名前の傍にいるから」
「…ッ」
錫也の優しさは麻薬だ。 止められなくなる。 抜け出せなくなる。
こうして私は依存していくんだ。
「いいんだよ」 「…え?」 「お前は俺に依存していいんだ。もっともっと俺に依存して、俺から抜け出せなくなればいい」
お前の中、俺でいっぱいになって。 俺なしじゃ生きていけない体にしたい。
「どんな名前も受け入れるから。大丈夫だから」
錫也がそう言ってくれて。
私はもう一度、静かに涙を流した。
‥fin‥
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