今夜君を抱いて眠りたい




















その手が、指が、唇が。
優しく私をだめにする――。

















錫也は優しい。
いつでもどんな時でも私の想いを尊重してくれる。
それは私に触れる時もそうで。



「怖くないか?」

「痛くないか?」



と、まるで繊細なガラス細工を扱うかのように何度も尋ねてくる。


私はそんな優しい錫也が大好きだ。
だから本当は少しだけ怖くても、泣きたいくらい痛くても、「大丈夫だよ」と言う。
すると錫也は私の気持ちを察してか「ごめんな…」と謝り自身を私にゆっくりと埋め込む。

私の嫌がることは絶対にしない錫也。
本当はすぐにでも動きたいだろうに、私が慣れるまでは動かず、顔や体にキスを落として待ってくれる。



「錫也はツラくないの?」



一度尋ねたことはあったが、錫也は最中にもかかわらず穏やかな表情で



「ツラくないよ。俺は名前が痛い方がツラいから」



と言った。









錫也は優しい。
優しい錫也は好きだ。

だけどもっと自分の欲求に正直になってみてもいいと思う。
もしかしたら私は…優しいだけの錫也では満足できないカラダになってしまったのかもしれない。

錫也とカラダを重ねる度に膨れ上がる快楽の幅。
もっともっと私を求めてほしいと思う願望。




(余裕のない錫也を見てみたい。感じてみたい)




そう心から望むようになってしまった。



























「名前…」




二人きりの空間で錫也は私の名前を呼んだ。
これからきっとそういう行為になるだろう雰囲気に私は人知れず胸が高まった。
錫也の唇が私のそれに落とされたのが合図。
いつものように優しい口づけに目を閉じた私だったが、今日こそ本心を言おうと思いキスをされながらそっと錫也の胸を押した。
錫也は私が行為に拒んだと思ったのだろう。
唇を離し、私を見つめた瞳はどこか悲しそうだった。
そして首をかしげて私に問いかけた。



「今日はイヤ…?」



まるで捨てられた仔犬のような顔で私を覗き込む。
そんな錫也に私は首を振る。




「無理しなくていいんだよ。俺は我慢できるから――」

「違うよ、錫也。そうじゃない」

「え…?」

「私、錫也に触れられたい」

「じゃあなんで…」




錫也は不思議そうに私に訊ねる。
私は意を決して自分の抱いている気持ちを話した。



「錫也は私に触れるときいつも優しいから…。あの…、優しい錫也が嫌いなわけじゃないんだけど、錫也はもっと自分に正直になってもいいっていうか…。余裕のない錫也が見てみたい、っていうか…」



恥ずかしくて錫也を直視することができずに、私は俯いて言葉を続けた。
しかし自分が何を言ってるのかもわからず、最後の方は語尾が消えかかっていた。




(これじゃあ私、ただの変態だ…)




そう思った瞬間。
錫也はギュッと私を強く抱きしめた。
そして強引に奪われる唇。



「んッ…」




呼吸する間も与えないようなキスに目がチカチカする。
苦しくなって酸素を求めた私の唇の隙間からは錫也の舌が挿入される。
今まで味わったことのない激しいキスにドキドキが止まらない。
そうしている間にも錫也の手は私の服の中に侵入してきて。
思わずビクッと私はカラダを震わせた。
荒々しく胸を撫で回す錫也の手。




「あっ…やッ、すずや…ッ」

「名前…」




名前を呼ばれたと思ったらドサッとベッドに押し倒された。
そして胸を弄んでいた錫也の手は気がつくと腿を這っていて、すぐさま私の中心部まで到達した。
下着の上から割れ目を撫でられ、じゅんわりと濡れた秘部。
自分でもわかるくらいそこは濡れていて。
恥ずかしくて私は耳まで熱くなる。




「凄く濡れてる…」

「ッ言わないで…っ」

「だって本当のことだから。ねぇ名前 気持ちいい?」

「ん…っ」




私は夢中で頷く。
すると錫也は艶やかに微笑んで、私に口づけた。
今度は甘くとろけるようなエロティックなキス。
私は錫也の手に、唇に翻弄される。




「服を着たままするのもいいね」




錫也が私の耳元で囁く。
大好きな錫也の低音の声。
それだけで私はイッてしまいそうになる。




「錫也…手だけじゃイヤ…ッ」

「わかってるよ」




そう言うと錫也はベルトを緩め、ズボンを下ろし、あらかじめ用意していたゴムを自身に装着させた。
そして私の下着を器用に脱ぎ捨てる。




「錫也ぁ…っ」

「名前っ」




お互いの名前を呼び合った後、錫也は私の秘部に勃ち上がった肉棒をあてがい、一気にナカへと挿入させた。




「あっ!」

「名前…」




普段ならここで錫也は私を気遣い動きを止める。
しかし今日は欲望のまま腰を振り、自ら快楽を探している。
それが、堪らなく嬉しい。



「錫也…っ、錫也ぁ…っ!」

「名前…、名前…」



迸る汗。
乱れる二人の息遣い。
錫也を感じるすべてが悦んでいる。

錫也も同じかな…?
私と同じ気持ちでいてくれてるかな…?



ズン、ズン、と奥を突く速度は加速していく。
それと共に私の喘ぎ声も大きくなっていく。
快楽の波が、襲ってくる。





「錫也ぁ…ッ、やっ…ぁッ!」

「名前ッ!」

「イク、イク…ッ!ぁ、やァァ…ッ!!」

「……ッ!」





錫也が薄い膜越しにドクッと想いを吐き出した。
それと共に感じる絶頂。

私も錫也もお互い肩で息をしていた。
ドサッと私の上に被さるように倒れた錫也。
その額は汗ばんでいて、普段よりもセクシーに感じた。
そして私に優しく微笑む。




「…ツラくなかった?」





ああ、よかった。
いつもの錫也だ。

私は真っ赤になりながら首を振った。





「……その、すごく気持ちよかった、です」





そう言うと錫也は頬を染め、「お前って奴は…」と小さく呟いた。





「錫也…?」

「今の俺、すごくカッコ悪いよな」





名前の前ではいつだって余裕のある振りしていたかったのに…
眉を下げて呟く錫也がとても愛おしい。




「どんな錫也も大好きだよ」

「俺も…、」





名前が好きだ。
愛してる。






私たちは月明かりから隠れるように抱き合いながら、そっとキスをした。

































‥fin‥