センチメンタル




















何もかもを置き去りにしたい。


















「好きだよ」
















突然言った私の言葉に錫也は目を丸める。
でも次の瞬間には優しい表情で私を見つめ、頭を撫でる。
私のよりも大きい錫也の手のひらが頬に降りてきて、視線が合わさる。
そして「どうしたんだ?急に」と言って笑った。





「どうもしないよ」

「普段のお前なら好きだとかあんまり言ってこないのに」

「だって錫也が好きなんだもん」






時々溢れてしまいそうになる。
錫也への想いが募り過ぎて。



錫也が好き。
この気持ちに嘘はなくて。
でもどうしたらこの気持ちを錫也に伝えることができるんだろう。
何度も考えて。
苦しくなって、切なくなって、泣けてしまう。






「錫也が、好きなんだよ」







俯いて、そう小さく呟く私に、錫也はぎゅっと抱きしめてくれた。


ただ抱きしめるだけ。
言葉なんかいらなかった。
錫也の匂いが私を包み込む。
春の陽だまりみたいな暖かい匂いが私を確実に安心させる。
今まで抱えていた不安も取り去ってくれる。


錫也は本当に不思議な人だ。





「大丈夫だよ。俺も名前が好きだから…」





錫也の言葉ひとつで幸せな気持ちになれる。
本当に私は単純な奴だと思う。





「好き、好き…」





唇から溢れた言葉。
ねぇ この言葉は錫也の心の奥まで届いてる?

そう思ったら錫也の唇が私のそれに重なって。
途端に何も考えられなくなった。






「何も考えなくていい。今は…、今だけは、俺を感じて。」






錫也がそう言うのなら、そうしよう。

不安な気持ちも、胸が詰まってしまうくらい切ない気持ちも。
何もかもを置いて、錫也を感じよう。






そして私はその晩、考えることを放棄した。






























‥fin‥