恋の終わり






終わった恋の心の傷跡は
僕に預けて…





恋の終わり





神様はきっと意地悪だ。
いつも僕の願いを聞いてくれない。
今だって、ほら。
大好きな君が涙を堪えて笑っているのに。
僕はそんな君を抱き締めることさえできない。


「なまえ…」


今にも消えてしまいそうな君の小さな体。
抱き締めることができるならどんなに楽なんだろう。


「……ック……しゅう…すけッ……」


今から数十分前のこと。
偶然通りかかった教室で、僕は君がフラれる所を目撃してしまった。
その彼女は僕の幼馴染みで、僕が想い続けていた女の子だった。

ずっと傍にいるものだと思い込んでいた彼女は僕の知らない間に他の奴を好きになっていて。
すごく綺麗になっていった。

僕はやるせなかった。
どうしてもっと早く想いを告げられなかったのだろう。
言わなければ気付いてもらえないのに。

そして僕は酷く醜い。
彼女がフラれてよかったなんて思ってるんだから。
そんな自分の想いに嫌気がさしてくる。
僕はきっと最低な男だ。
大好きな君の幸せなど願ってないのだから。


「なまえ、もう…無理しなくていいよ」

「周助…」


君は涙を拭いて必死に笑顔で答えた。
酷く痛々しい。
無理に笑わないで。
君の涙ごと抱き締めてあげるから。


「…ッ…ダメだなぁ…あたし…。いつも周助に甘えちゃうんだもん」

「僕は構わないのに」

「ダメだよ。いつまでもあたしたち、幼馴染みではいられない」

「どうして?」


僕の質問になまえは目を丸めた。


「どうしてって…わかるでしょう?あたしには好きな人がいるのにいつまでも周助に甘えてたら誤解されちゃうでしょう?逆のことだって言えるのに」

「僕は……」


君が好きだから、
そう言いたかったけど。
喉元で言葉が止まって出てこなかった。
なんてもどかしい関係なんだろう。
友達以上、恋人未満がこんなにも辛いだなんて。
今すぐにでもぶち壊してしまいたいけど、君と二度とこうして話せなくなってしまうのはどうしても避けたかった。
所詮僕は臆病者だ。
君に嫌われたくないがために偽善者でいてようとするのだから。
でもこれも愛のカタチの一つだよね?


「失恋にばかり捕らわれてないで早く新しい恋でも見つけたらいいよ」


――こんなにも君を想ってる人が近くにいるのに。


「なまえは素敵な女の子だからきっといい人と出会えるよ」


――どうして気付いてくれないの?


自分で言ってて切なくなった。
なまえにとったら僕は男として見てもらえてないのだろうか。

「新しい恋、かぁ…」


なまえは好きになったら一途な所がある。
いつまでもその人を想い続けるが故、傷ついてしまうことも多々ある。
どうしてその想いが僕に向いてくれないんだろう。


「あたしね、何度もその人を忘れて新しい恋を見つけようとしたの。でもその人を忘れようとする度に余計に思い出されて忘れられなくなるんだ」


どうしてだろうね、と儚く笑う君の横顔が切なくて。
僕は思わず抱き締めた。


「しゅう……?」

「君は何もわかっちゃいない」

「え――?」

「僕だって何度も君を忘れようとしたけど、忘れようとする度にどんどん想いは募っていくんだ」


まるで麻薬中毒者のように。
忘れたい、でも忘れられない。
君にさえ出会っていなければ、こんな苦しい思いをしなくて済んだのに。
痛い、でも甘いこの感情。


「僕だけを見てよ」


溢れた想い。
君はさぞかしビックリしたことだろうな。
何とも思っていない幼馴染みに急に抱き締められて。

ごめんね。
こんなやり方でしか君に想いを伝えられないなんて。
不器用な僕を許して。


「いつだって僕は君を見てた。恋して綺麗になっていく君を」

「…しゅう……」

「でもその度に傷ついていくなまえをこれ以上僕は見ていられないよ。ねぇ お願い――」


僕に恋して――?


ずっと胸に秘めてた想い。
苦しかった。
切なかった。
辛かった。
気付いてもらえなかったことが。
だけど今、伝えることができた。


「ずっと、」

「――?」

「幼馴染みだったから…」

「うん」

「時間かかっちゃうかもしれないよ?」


泣き顔の君が少しだけ、笑った。


「それでもいい」


僕は言う。


「なまえの恋の傷が癒えるまで僕が傍にいてあげるから」

「周助はそれでいいの?」


今、わかった。
僕が今まで想いを告げられなかった理由が何だったのか。
きっと怖かったからだ。
君との距離が変わってしまうのが。
だけどもう恐れない。
怖くない。
だって僕は勇気を手に入れたから。


「僕はなまえを振り向かせる自信があるからね」

「周助、」

「ゆっくりでいい。僕のこと好きになって?僕、なまえの気持ち…待ってるから」

「うん」

「あ、でも」


僕は抱き締めていた腕を緩めて指をなまえの唇にあてる。


「あんまり待たされると我慢できなくなっちゃうかも」


そう言うと君は目を丸めて僕を見た後、クスッと笑って言った。


「その時は周助のなされるがままになります」







少しずつ、
想いは変化していく。
それだけ僕らは大人になっていくということ。

恋の終わりは新たな恋の始まりを連れてきてくれた。
僕とで最後の恋にしてあげる。


君を幸せにするから。
それまでは恋の感傷に浸らないで――。


君が、好きなんだ。










‥fin‥