wish upon a star






たった一つ
願いごとが叶うなら…





wish upon a star





私は図書委員。
12月は大掃除の時期ということもあり、本の整理整頓で忙しい。
本当は図書委員のみんなで集まってやればあっという間に終わるはずなのに、何故か今日は私一人。
…というのも、みんな部活や塾で忙しいとかなんとかで。
結局用事のない暇人の私が放課後残って片付けることになった。





「ハァー。もうやってらんないよー!なんで私が一人残って掃除しなくちゃいけないのさー!」

「そうだね」

「その上この学校無駄に設備が整ってるから図書館一人で掃除しろなんて無理あるでしょー!」

「可哀相だね」

「………」


私は独り言を言っているはずなのに何故か相槌を打たれる。
声のする方へ行ってみると先程整理したばかりの本棚がさっそく荒らされている。
犯人はわかってる。
だってそいつはクラスメートの――


「不二!」

「ん?なぁに、みょうじ。呼んだ?」

「そこ!さっき私が整理したばっかりなの!」

「あ、そうだっけ?」

「そうだっけ?じゃなーい!」


私は不二が散らかした本棚の近くへ寄り、再び片付ける。
不二はちっとも悪いことをしたと思っていないようで。
そんな様子に余計腹が立った。


「大体なんでここにいるの?今掃除中だから不二がいると邪魔なんだけど」

「ごめんごめん」


なんて口では言ってる不二だけど全然心の底から謝っている気がしない。
不二は私をからかっているのだ。

何も最近始まったことではない。
同じクラスになって席が隣になって。
よく話すようになったのは認める。
だけど気が付いたら不二は私にちょっかいを出すようになった。

かっこいいくせにどこかミステリアスで決して人に弱みを見せない。
そんな不二が正直私は苦手だった。


(何を考えているのかさっぱりわかんない!)


私は不二が散らかした本を丁寧に拾い集め本棚に戻す。
誰も読みもしない古い書物ばかり。
しばらく静かだったので不思議に思って不二の方を見てみると。
あいつは別の場所で本を漁っていた。


「もー!不二ってば!いい加減にしてよ!」

「ねぇ みょうじ」

「何よ」

「たった一つ。願いごとが叶うならみょうじは何を願う?」

「はぁ?」


不二は分厚い本を片手に私に聞いてきた。
突然なんてことを聞くんだ、この人は。


「そんなこといいから早く片付けてよ」

「質問に答えたら手伝うよ」


不二は私を見てにっこりと笑う。
この笑顔――私、苦手。


「不二は?」

「え?」

「私が答える前に不二が答えてよ。じゃなきゃ答えない」

「ふぅん、質問返しってやつか」

「もー!とっとと答えてよ!そこ、早く片付けたい!」


すると不二は少し考え込んだ後、にこっと笑って私に言った。


「世界平和」

「嘘。世界征服の間違いでしょ」

「みょうじ…僕ってそんな風に見える?」


あ、怖い。
今ヤバイオーラが出ましたよ、不二クン。
私は思わず後退り。
すると不二は「ごめん、冗談だよ」っていつもの笑顔で言った。

…その笑顔が怖いんだってばー!


「で?本当の不二の願いは何なの?」

「そうだなぁ…夢を叶えてもらうよ」

「ちょっ!それってアバウトすぎない?」

「気にしないで。それで?みょうじはどうするの?」


ずるい。
自分はかなりアバウトな答えを言っておいて次は私に答えさせるなんて。
ずるい、せこい、卑怯!

「今“卑怯だ”って思ったね?」


お願いです。
心の中を読むのはやめましょう。


「私は…」


そういえば私の願いってなんだろう。
なりたいものや欲しいもの、叶えたい夢なんてたくさんあるはずなのに…。
ありすぎて一つになんて絞れない。


「ない」

「え?」


不二は驚いた顔をして私を見る。


「私は願いごと、叶えてもらおうなんて思ってないから」

「夢も?」

「だって夢って叶えてもらうんじゃなくて、自分で叶えるものでしょう?」


そう言ったら不二は目を丸くした後、フッと笑って手に持っていた本を開いた。


「みょうじ、君って変わってるね」

「な!褒めてない!」

「人は昔から、自然や神様に願いというものをかけてきたんだって」

「?」

「この本にそうやって書いてあるんだ。西洋では星に願いをかけたりなんかしてきたんだよ」

「ふぅん」

「なんで人は夢を持つんだろうね。時にそれが叶わないってわかっているのに人は願わずにはいられないんだ」

「不二?」

「星に願いをかけても誰も叶えてはくれない。結局願いを叶えるのはみょうじの言う通り自分自身なのにね」


不二の真剣な眼差しを見た。
青く、吸い込まれそうなその瞳。
たった一点、私だけを映している。


「不二は…叶いそうにない夢を抱いているの?」

「僕?」

「やけに哲学的な話をしてるから」

「クスッ いいでしょ?たまには。僕らしいじゃない」

「どこが」


私の知ってる不二は…なんかもっとこう…、口では言いにくいんだけど策士みたいな感じで人に本性を見せないようなイメージだったから。
こんな不二…私、知らない。


「不二…」

「さぁ 質問に答えてもらったことだし、片付けるの手伝うよ」

「あ、うん」


不二は自分の周りにある散乱した本を集める。


(不二の本当の願い…なんだったんだろう?)


「みょうじ」

「なに?」

「好きだよ」


一瞬時が止まった。
不二の言葉だけが耳に残る。


「え…」

「いつかこの返事聞かせてね。あ、今すぐでなくていいから」

「ちょっ…不二」

「星に願いをかけてしまう程…僕はみょうじのことが好きなんだ」





やっぱりこの人ずるい。
たとえ私にその気がなくても不二は私を振り向かせる。
振り向かせる自信のある顔だ。


「みょうじ」

「はい?」

「僕、本気だから」

「わかってるよ。そんなこと」

「そう?ならよかった」

「今は、ここを片付けるの手伝ってちょうだい」

「クスッ わかってる」







このドキドキは隠せない。
君にたった一言で魔法をかけられてしまったから。


願いは星に。
祈りは月に。


なんてフレーズが頭を過ぎった。





「きっと今夜も星が綺麗だよ」







不二がそう微笑んだ。
















‥fin‥