DEAR…again




ずっとあなたを待っていた。
そんな気がするの。





DEAR…again





仕事の都合で予定していたデートがキャンセルになる。
でもそれは社会に出れば珍しくはないことで。
申し訳なさそうに謝る恋人にこんなことで我儘を言って困らせる訳にもいかず、私は笑顔を作って言った。


「仕方ないよ。お仕事なんだもん」

「でも…明日はなまえの……」

「大丈夫。また別の日に埋め合わせしてくれればそれで構わないよ」

「本当にごめん」

「うん。だからお仕事頑張って」


そう言ってみたものの、この日は私の誕生日だったから。
せめてこれがもっと別の日だったらよかったのに…と私は思った。
周助は恋人同士のイベントを大切にする人だった。
誕生日は勿論のこと、付き合い始めた日やバレンタインデーにホワイトデー、クリスマスなど今までイベントはずっと一緒に過ごしてきた。
だから一番気にしていたのは周助だったに違いない。
そんな彼に私は淋しい気持ちを悟られないように必死に笑顔で振る舞った。


私は自分の部屋に一人きり。
この日のために周助が予約してくれたケーキが冷蔵庫にあったけれど、一人で食べる気にもなれず。
私は一人の時間を持て余していた。

時折風が吹く度に、足音が聞こえる度に周助が帰ってきたんじゃないかって胸を膨ませるけれど。
その期待はことごとく裏切られる。
少しでも気持ちを紛らわせようとテレビをつけてみたけれど。
賑やかなテレビ番組が余計に私を淋しくさせた。
だから私はこれ以上自分を傷つけないように、自分を守るためにそっとテレビの電源を消した。


静寂の夜。
一人きりの部屋。
ベッドの上で私は膝を抱えて泣いていた。
こんなことなら周助に縋ってでも側にいてもらえばよかった。
まさか自分の誕生日を一人で過ごすことになるなんて。
淋しい気持ちでいっぱいだった。
だけど今頃周助は会社でお仕事頑張ってるんだ。
私だけ我儘を言って周助に迷惑なんてかけたくなかった。


だけど――。


周助の声が聞きたい。
周助に囁かれたい。
周助の温もりが恋しい。
周助に抱き締められたい。
周助の笑顔に会いたい。


携帯も周助からのメールが来なければちっぽけな機械に過ぎなかった。


神様なんていないんだ。
誕生日くらい周助を独り占めさせてくれたっていいじゃない。


だから私は季節外れのサンタクロースがやってくればいいのに、と何度も思った。
プレゼントなんていらない。
あなたがいてくれれば何もいらないから。
側にいてほしかった。


「我儘…だよね…」


私は僅かな望みを諦めて携帯の電源を切った。
普段はお酒が苦手な私だけど、今夜ばかりは飲まずにはいられなくて。
飲めないワインをグラスに移して一気に飲んだ。
なんとなくやけ酒を飲む人の気持ちがわかった。



それからどれくらい時間が経っただろう。
ワインを飲んだ後、ベッドに移動した記憶がないからきっとそのまま寝てしまったんだと思う。
だけど――。


(あれ…?)


目をそっと開けてみた。
そして自分の回りに目を疑う。
ここは紛れもなくベッドだった。
布団も丁寧にかけられていたので寒くはなかった。
そして寝返りを打とうとした時、隣に違和感を感じた。


(私…抱き締められてる――?)


そっと隣を見てみるとそこには私がほしくて堪らなかった恋人の姿があった。


(周助!?)


スヤスヤと寝息をたてて眠っている周助。
私は戸惑いが隠せない。


(なんで!?昨日は私…一人のはずで――。)


あれこれと考えてみる。
あの淋しい夜は夢だったのか。
だけどお酒を飲んで頭がズキズキすることから夢でないことがわかる。
じゃあなんで周助がここに……?



「…ん……なまえ……?」

「周助……」

「おはよ」


にこっと寝起きの笑顔で私に微笑んでくるのは紛れもなく周助で。
私は驚く。


「周助…仕事はどうしたの?」

「終わらせてきたよ」

「えッ!?」


周助は目を細めて私の頭を撫でながら優しく言った。


「昨日は仕事入っちゃったけど、僕やっぱりなまえの誕生日になまえと一緒に過ごしたくて。だから急いで仕事片付けてきた」

「嘘でしょう…だって、そんな……」

「嘘じゃないよ」


周助は私の左手を取って私に見せる。
私は驚いた。
いつもはない重み。
左手の薬指に小さく光るそれは涙で滲んでよく見えなかった。


「周助…これ……」

「なまえ寝てたから気付いてなかったかもしれないけど、昨日こっそりつけちゃった」


そう言って周助は自分の左手を私に見せる。
同じ形をしたシンプルな指輪。
一層輝いて見えたのはやはり涙で視界が滲んでいたからだろうか。


「なまえにプレゼント。本当はもっとロマンチックなシチュエーションで渡したかったんだけど……」

「……いい…」

「ん?」

「周助の気持ちだけでいい…周助が側にいてくれるだけでいい」

「なまえ…」

「私のために…ありがとう」


周助がそっと私の左手を取って指先にキスをした。


「お誕生日おめでとう」


周助にそんな風に言われたら、昨日の出来事なんかどうでもよくなった。
淋しい夜も、あなたがいるから越えられるんだね。


周助は私をギュッと抱き締めると耳元で囁いた。


「昨日頑張って仕事してきたんだ」

「うん」

「早くなまえに会いたくて、おめでとうって言いたくて。徹夜で仕事を片付けてきたんだ」

「うん」

「だから――」


ご褒美頂戴?と甘い声で囁いた周助。
私と周助はクスクス笑い合って何度もキスをした。








神様なんていない。
季節外れのサンタクロースもいなかったけど。

あなたが私のために世界一の幸せの時を運んできてくれた。


かけがえのない奇跡にありがとう。












‥fin‥